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目標
「あ、その鳩は、沢山餌あげたらいけないんで、青菜をたっぷりやって下さい」
「その鳩、一回産卵を休ませましょう」
「委託者に確認します。次のレースはジャンプさせた方が良いと思います」
一羽一羽に対する、非常に細やかな指示を若菜はしていた。そして、若菜には、参加しているどのスタッフも驚愕するような、競翔鳩の委託全鳩の脚輪番号から、血統、翔歴まで記憶していたのである。
事務的な合同鳩舎の管理を、若菜が学業もあるが、土日もあるが祭日、休日にはびっちり詰めて、祖父佐伯も若菜の決心を聞き、参同した。並々ならぬ決意を若菜はこの時していた。もともと非常に優秀な娘であった。しかし、様々な環境がもの言わぬ子として成長した。そして、彼女自身は知らないが、前原家の血を受け継ぐその才能は、知らずのうちに彼女を成長させていた。血縁の須崎との出会いは、血の誘引のなせる業か、また、母恋しと枕を濡らした、その思いは、美弥の思念とも同調した。ここに、身近で最も彼女自身を守り、友として歩んで来た競翔鳩に対する、決意は高い目標となり若菜を動かそうとしているのであった。




