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少女と鳩
「やあ、その籠は何?」
少女はうつむき加減で、少し須崎を警戒しながらも、
「これは放鳩籠・・訓練にやって来た」
「・・?訓練?・つまり、その鳩って伝書鳩って言うんだよね」
「レース鳩、私飼ってる」
「ふうん・・そうなんだ。じゃあ、近くなの?家」
少女は答えなかったが、単語のやりとりだけで、須崎に対する警戒心を解いている訳では無く、鳩を籠から出し、丁寧に抱いてからしばらくして鳩を頭上に掲げると、この寒空の中放鳩すると、そそくさと自転車で帰って行ったのだった。容易に近くに住むであろうと言う事は察せられたが、須崎は踵を返すと、車に乗り込んだ。向かったのは、入居する社宅である。
着くと、少し無愛想そうな小太りのキミさんと言う初老のおばさんが、
「あっちの部屋・・荷物は届いているからね、夕食は7時、朝は7時半。遅れると御飯無いよ」
矢継ぎ早に須崎にそう言うと、忙しそうに奥の部屋に消えて行った。