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成長
「分かるよ。美弥が取り組んでいる事は、夢のあるものだと俺も思う。けどさ、神部部長の為に自説を曲げるなんて事は、有り得ないんだろ?美弥にとって」
「ええ・・無いわ」
「じゃあ、それで行けよ。神部部長だってケチつける為に出張に来ているのでも無いだろうしね」
少し夫の言葉で楽になった。
とりは、合同鳩舎に直行した。そこには、若菜も当然ながら居た。とりの大きな体は、若菜にとっては荒いが、優しくて包容力を感じる漁師達の姿と同じで、何故か初対面なのに安心感を与えた。全身から感じる自然体、飾り気のないもの言いも、初対面の者を極端に遠ざけてしまいがちな若菜の心を開放していた。
「熱心なようなのう、若菜ちゃんは」
大きな口を開けてとりは笑う。これが日本でも現在有数な有力企業の沢木グループ総裁なのだ。童顔のような顔で若菜に言う。いっぺんで打ち解けた若菜だった。
「いえ・・私も鳩を飼ってましたので」
「おう、聞いとるよ。北竜号言う鳩じゃてのう。南部×今西系の在来系だと聞いとるきんど、短・中距離で7つも優勝しとるとか。貴重な鳩じゃわなの」




