成長
「おう・・そうだ、そうだ。まだ赤ん坊を抱えて、今では㈱REC社長として須崎さんも忙しい立場。奥さんも揃って事業となると、まあ、大変だよなあ」
「私・・手伝いたいの、美弥さんを」
「けど・・そんな簡単なもんじゃ無いだろう?美弥さんが私縁の者を入社させると言う話は、若菜、それは幾ら親しくても甘え過ぎじゃないのか?」
「うん・・だから、今経済学の事、一生懸命勉強してる。堂々と入社試験を受けるつもりよ、じいちゃん」
「そうか、そうか。若菜がそう言うのなら、じいちゃんも応援するよ。逆に思えば、美弥さんの所ならこれ以上も無くじいちゃん達も安心も出来るしな。で?父さん、母さんに言ったのか?」
佐伯氏が問うと、若菜は首を振る。
「ううん?父さん、母さんは、佐伯海産㈱で私が働く事を当たり前に思ってる見たい」
「ああ・・成る程・・」
それ以上は、佐伯氏も言わなかった。まだ大学一年生。ようやく精神的ショックから立ち直りつつあり、初冬の事だ。そのうち考えも変わるだろうと思った。
北国の冬は厳しい・・しかし、若菜はこの地が決して嫌いでは無かった。海に立つ時、もう心配しなくても良いのだ。両親の出港を見守る必要は無い。ひとりぼっちで寂しくて、唯一心の拠り所の鳩を抱いて両親の帰りを待っている事も無い。




