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若菜の海  作者: 白木
238/399

接点

 理恵と菊野が初めて会った。そして会った瞬間、二人は互いに見つめ合い、無言で嗚咽をする。そして、とうとう理恵も菊野の肩を抱きながら、号泣し合った。若菜が、そんな体験をした事を理恵も知らなかったからである。命がけで娘を守った生みの母、その強い母性愛には圧倒された・・何時しか産みの母親である菊野の存在が、子どもを産めない自分へのどうしようも無い苛立ちの気持ちと重なり、若菜にそれをぶつけた。それがただ、耐える事しか出来ない幼い若菜の心を閉ざしてしまっていた事。産みの母親、育ての母親・・自分がどちらに向いたら良いのか・・彼女にその結論を出させるのは酷であった。

 ようやく若菜が生長し、また理恵も美弥の存在で心を開放出来、菊野もまたずっと重たいこの試練を抱えて行くよりは、自分の重みを取り去った方が良い・・そう思ったのである。

 そして、二人はこれまでもニアミスを繰り返しながらも会う事も無かったが、美弥の仲介によって会う事になった。この19年の思い・・菊野と理恵は言葉にはならなかった。互いに互いの気持ちが今では分かるからだ。二人は、手を取り合って泣く。命がけで若菜の身を守った実の母への愛・・・そして厳冬の海に出る母を、じっと心配しながら待ち続けていた若菜の理恵への思い・・それは、純粋であるが故に、振れ続ける「心の振り子」を少女にはどうしようも出来ない選択を迫った。そんな若菜の心を分かってやれなかった理恵は、やっと若菜の気持ちを理解したのである。そして、治療には自分の立つ位置が必然であると思った・・。


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