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少女と鳩
その地に立った須崎は、寒さに震えながら驚いていた。
白波を立てる海。正面から吹きつけるみぞれ混じりの風・・コートの襟を立てながら、厳しい海の様子をただ彼は見つめているのであった。
上司に反発し、遠く異動を命じられた北の地・・その余りにも僻地な環境・・、南国で生まれ育って来た彼の身には、凍える寒さであった。35歳、今一番働きが出来る年代であり、ボクシングもやって来た屈強の男であるが、余りにも強い正義感故に、悉く小官僚タイプである営業課長の仁科とぶつかり合って来た。
細身の体つきであるが、キリっとした眉、締まった唇。いかにも剛直そうに見える男であるが、
「ああ・・俺はここで定年を迎えるのかな・・この不況下では転職すると言ってもなあ・・」
白波を立てる海に向かい、須崎は後ろ向きになりながら、ライターで煙草に火をつけた・・
そこへ、中学生らしい前髪をおでこを少し隠すように、眉毛まで垂らした女の子が、籠を下げてやって来る。
須崎は声を掛けた。