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氷解
少し沈黙があった。菊野は、今日の店の開ける時間を遅らせるわと言って、今では漁師を辞めて、菊野に手伝いに入っている泊と言う板前に電話した。仕込みの前に、張り紙を出して置いてくれと言うものだった。
菊野は、美弥と改めて向かいあった。
「何から話そう・・まず、前原恵一さんと私の子が若菜ちゃんと言うのは知ってるわよね」
「はい」
「その恵一さんだけど、雄一郎会長には二人の息子さんが居た事をご存知かしら?」
「え・・いえ・・初耳です」
「恵一さんは、実は妾の子と言う事も知らないわよね、勿論」
「ええっ!」
美弥には、驚く事ばかりであった。
「後妻で来た、今の会長婦人泰江さんには、子が居ないの。でも、恵一さんを自分の子として愛情深い方だから、育てたわ、立派に。表向きは前妻の子としてね・・」
「じゃあ・・本妻のご長男って言われる方は・・?」
「その前に・・私もその方と一緒だわ。養女に佐伯海産の娘として、結局子の将来を憂うが故に出した・・」




