競翔
少し前の美弥の話に戻る。
「帰って来たわ!」
須崎美弥の競翔家としての初レースに、一番手で戻って来た鳩の雄姿に、彼女は大きな声を上げた。須崎が丁度昨夜、北海道営業所巡回から戻って来た所だった。眠そうな顔をしながら、鳩小屋を覗き込む。彼はまだ何で美弥が競翔鳩にのめり込もうとしているのか、理解は出来ていなかった。それは、単なる佐伯若菜と接点を持ちたいと言うだけのものでは無さそうだが、次々と結婚後、彼女の今まで分からなかった部分が見えて来て驚くと同時に、自分より遥かに思慮深く、才覚を持った女性だと十分過ぎる程分かっているが、そこに結びつくものが見えないのである。が・・それは逆に童心のように眼を輝かせて鳩の帰りを持つ、美弥自身の姿なのかも知れない。嬉しそうにその姿を眺めた。
「あら、貴方起きたの?御免なさい、すぐ朝食の支度するわね」
「いいよ、いいよ。今日は、もう一度寝るよ。鳩の帰りを待つんだろう?ICチップを搭載して、近代的な競翔に驚いてるけど、生身の鳩にとっては、そんな体にCPUが入っている訳でも電子的な動力源がある訳じゃ無いんだもんな。待ってる姿が、競翔家にとって本来あるべき姿なんだろうと思うよ」
「ふふ・・」




