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奇策
佐伯氏が、かっと眼を見開いた。非常に驚いた顔だった。
「な・・に?若菜が自分の出生を知っているだと?」
美弥は頷いた。
「はい・・どこから得た情報かは分かりません。でも彼女は知っています。本当の両親では無い事を・ただ、誰が本当の親かは正確には知りません。その名は出ても、彼女には確かめる手段も無いし、顔も知らないので」
「何と・・・おお・・何と不憫な・・若菜・・」
祖父として、絶対守らねばならない秘め事を若菜が知っていると言う衝撃に、佐伯氏は泣いた。
「学校にあの子が行かなくなった理由は、その辺にありそうです。心無い子どもの父母が、又聞きして流した情報でしょう」
この時、居る筈の無い理恵が聞き耳を立てていた。何となく美弥が何で急速に自分達に近付いて来たのか少し疑心を持ち始めた頃だったのだが、この会話は、彼女の心を大きく揺さぶったのであった。




