奇策
「俺は・・屋鍋君を信じてもいなかったが、ここまで豹変する人物とも思って無かったよ。つくづく甘かったんだよね。俺って・・」
自嘲気味に言う君成に、須崎は、
「立場が意識を決定するって哲学の言葉が、ありますよね」
「マルクスの唯物論的弁証法だよね」
「はい・・つまり会社組織にあって、TOPとは孤独であって、重責を負って居る訳ですから、3代目としての君成社長の両肩は非常に重かった事でしょう。まして、創業者会長、業績を短期間で積み上げた前々社長。その重責を突如のご死去によって受けられた訳ですから、お察し申し上げます。私なんて北海道支社長と言う肩書きだけでも、震える程の重責です」
「はは・・木下前常務が君を推挙し、育てようとした訳だ。やっと今自分が誰を自分の右腕に置いてやって来たら良かったかと、思ってる」
「え・・木下常務が私を北海道に呼んだと言うのですか?」
「あれ・・?知らなかったんだ・そうだよ。君は、屋鍋君に飛ばされたとでも思っていたの?確かに色々聞こえては来たけど、一課長が人事の事までは差配出来ないよ。人事は現黒田社長の権限だったんだ。俺もそこにはタッチ出来なかった」
「・・そうでしたか・・でも何で?」




