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感情
しばらく沈黙の後、若菜はこう言った。
「北竜号は、何時も漁に出る、父さん、母さんが船に乗せて行った」
美弥は、その若菜の気持ちをこの時瞬時に察したのであった。思わず、ぎゅっと若菜を抱きしめていた。美弥は言った。恐らく須崎にすら言っていない自身の過去を・それは、何故美弥が若菜の為に、ここまで気持ちを入れ込んでいるかも明らかになって行く。
「私ね、若菜ちゃん。実は貰いっ子なの。子どもの居ない叔父夫婦の養女になったのは、物心のついた小学2年生の時。叔父夫婦は優しくて、本当に大事にして貰ったわ。大学まで出してくれて・・でもね、若菜ちゃん、私には4人の兄、姉達が居て、何で私だけ養女に出されるのか、それが理解出来なかった。毎日泣いてたわ」
「え・・」
若菜は美弥を見上げた。この明るくしっかりしたお姉さんが、まさか、そんな境遇を抱えていたなんて、思わなかったからだ。




