信頼
全く面識の無い二人を、若菜と言う存在が結び付けた。須崎の家内になると言う美弥の訪問を喜びながら、菊野は複雑な表情をした。若菜の事だった。美弥から現状を聞き、涙を零す菊野。どうしても手助け出来ない自分が悔しいのである。その心を美弥も理解し、一緒に涙した。これから若菜に接触し、何を彼女の心を暗い闇に追いやっているのか、彼女は理解しようとし始めた。それは、男である須崎には、入って行けない女性同士の心の深遠部分でもあった。
ここで美弥は、須崎との婚約発表の席上に、菊野を招こうと提案した。しかし、菊野は即答、
「駄目、駄目よ。美弥さん。その席には佐伯さんが来る。息子さん夫婦、若菜ちゃんが来る。絶対顔を合わせては駄目なの。無理よ」
美弥の提案は、その事の困難を理解させた。しかし、美弥は、彼女が思っている以上に、行動も発想の転換も機敏な女性だった。これは、須崎を遥かに飛び超えた彼女自身が、これまで内包して来た才覚でもあった。
婚約発表まで急速に色んな事が動いて行く。
「え!根室に住みたいって?何で?」
須崎は美弥と今同居中の札幌市内のマンションの部屋で、読んでいる新聞をテーブル置き訊ねた。




