少女と鳩
全く事情の飲み込めない須崎だったが、その理由は、この商談会が終了した後で知ることになる。
木下が、須崎と営業所に戻り、所長室で話している。
「REC食品㈱は初代、前原雄一郎会長が裸一貫から創業され、今年商は300億円を越える中堅食品加工会社だが、私が東京営業所に居た頃、三代目になる現君成社長に、現場を覚えて来いと故前社長が指示し、一緒にここへ派遣されたのが私だよ」
「へえ・・木下所長は、東京営業所の部長で・・?」
そこまで聞くと、木下は少し眉を曇らせて窓外に向いた。
「ああ・・私は次期役員を約束されていた。君が入社する少し前まではね」
「・何か聞いたら駄目な気がして来ました」
振り向くと、木下が、
「いや、構わんよ。私は今56歳、5月に57歳になる。一人娘も大学を卒業し働き出した。これを期に、千葉に戻ろうと思ってるんだ。退職は8月に決めてある。つまり、須崎君は私の後釜として派遣された訳だ。ゴマスリ課長の屋鍋君に徹底的に嫌われて、君成社長に御注進されたからね。特に君の上司である屋鍋君は、そういうのに長けている人物だからね。ふふ」
「はあ・・」




