舞闘会の準備
舞闘会の案内状は、私の名前で出した。
ハインリヒ・フォン・リンデン。
主役のお姫様、カタリーナ・フォン・グリュンヴァルトから見ると、姉の婚約者というほぼ他人の関係だ。
グリュンヴァルト名義で開催してしまうと、優勝者がカタリーナの新たな婚約者になれると誤解させてしまう。
あくまで、「善意の第三者のお節介」というスタンスにした。
いや、本当に、第三者のお節介だ。善意ではなく、下心つきだが。
不埒な元婚約者を殴り飛ばした話を聞いて申し込んできた人たちは、どうも普通の求婚者とは違う。
南の辺境伯と東の辺境伯、騎士団長の子息からは、前向きな返事が来た。
領地に戻るとか軍事演習で出張の予定があるとか、主に日程と戦うルールに関する問い合わせがあった。
なぜ、そんなに前のめりになってやる気に満ちているのだろうか。
婚約の打診を取り消すという話は出てこなかった。
それについては、カタリーナの選択を狭めることにならずに、よかったと胸をなで下ろす。
しかし、釣書を送ってきた十数人の、全員参加……そんな規模になるとは考えていなかった。
参加者は半分くらいだろうと思っていた私が甘かったのか。
そんな苦労の甲斐あって、カタリーナがようやく釣書を手に取った。
よし、その調子で嫁に行ってくれ。
「お姉様、誰が勝つと思う?」
カタリーナはテーブルに釣書を並べて、予想を立てようとしている。
純粋な戦力ではなく、為人を見比べて検討して欲しいのだが?
「カティ、あなたはじっくりと釣書をお読みなさい。
わたくしはハイネと会場を探したり、準備をしなければいけないの」
愛しのゲルトルートが、私を愛称で呼ぶ。
そして、いいことを言ってくれた。
「私の知人の家が広めの訓練場を持っているから、そこを借りようと思っていたんだ。
けれど、この人数では、同時進行で何組か試合をしないと終わらないだろう?」
カタリーナに、私たちがデートではなく仕事をしていることを知ってほしい。暗に、お出かけに付いてこないでくれと言ったつもりだが、伝わっただろうか?
「一斉に戦って、八人が残るまで乱戦でいいんじゃないかしら?
そうしたら、準決勝、決勝と勝ち進めるでしょう」
「カティ、あなたそれでいいの? その八人に残れない人は、対象外にしてしまうつもり?」
ゲルトルートが首をかしげる。可愛い。
いつもツンケンしている美女が、油断している姿は愛らしい。
「お姉様、大丈夫よ。動きのいい人は、自然と目に入るわ。
うちの家臣団の面接じゃないのだから、多少見落としがあってもいいでしょう。
一目惚れして、依怙贔屓しても構わないはずよ。そうでしょう?」
私とゲルトルートは顔を見合わせた。
確かにそうだ。
公正な試合というより、カタリーナが気に入る人を見つけるための大会なのだ。
ふふっと笑い合い、肩の力を抜いた。
所詮、お遊びじゃないか。
「カティ、あなたの予想では誰が……」
ゲルトルートが話しかけたとき、サロンの扉がノックされた。
「お嬢様。大会に参加したいというお手紙と、領地から……」
メイドが話している後ろから声が聞こえた。
「お嬢、面白いことをやるって聞いて、領地から出てきたぞ」
「師匠!」
カタリーナが叫んだ。立ち上がって、抱きつきに行く。
ああ、この熊のような男が、カタリーナに護身術を仕込んだのか。




