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婚約者にすっぽかされていた妹のために、過保護な姉が怒鳴り込みました  作者: 紡里
第二章 舞闘会

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5/10

舞闘会への招待状

たくさんの応援をいただき、ありがとうございます。

番外編を書きました。

 私は婚約者のゲルトルートに、一枚の紙を差し出した。

 ここは彼女の家のサロンで、晩餐の時間までゆっくりさせてもらっているところだ。



『義理の妹になる予定のカタリーナ嬢の、新たな婚約者へ名乗りを上げた紳士諸君へ


 彼女は以前の出来事で傷ついたせいか、縁談にあまり乗り気ではない様子だ。

 そこで、彼女に貴君らの勇姿を披露する場を設けてみようと思うが、どうだろうか。

 普段の言動から、彼女は強い男を好むように思う。

 参加を希望する者が三名以上集まるようなら、舞闘会を開催するつもりだ。

 興味があれば、ぜひ意向を聞かせてほしい』



「トルーデ、これをどう思う? 悪くない催しだと思うのだけど」

 トルーデというのはゲルトルートの愛称だ。


「あの子、別に落ち込んでいないわよ? 行儀作法を放り出して、喜んでいるくらいだもの」

 ゲルトルートは「困った子なの」と言いながら、優しい顔を見せた。


「このまま時間が経ったら、将来どこにも嫁げない猿になってしまうよ。

 叩き込まれたマナーが抜けないうちに、嫁ぎ先を見つけた方がいいと思う」


「相変わらず毒舌ね。ひどいわ。あんな可愛い子を猿だなんて」

 ゲルトルートに、パシリと腕を叩かれた。親しい人にしかやらない振る舞いに、頬が緩む。


「いや、普通のご令嬢は婚約者に回し蹴りはしないよ」

 浮気者を成敗するのはいいと思う。だが、人前でスカートを持ち上げ、太ももからズバンと勢いよく蹴るのは……はしたない。淑女のやることではないだろう。


「猿だって回し蹴りはしないわ。

 あら、どの動物ならするのかしら……馬とか?」


 ゲルトルートは、妹の蛮行が気にならないようだ。

「話が脱線しているよ」

 どさくさに紛れて彼女の両手を握り、こちらを向かせた。


「あら、ごめんなさい。

 この催しで気になることよね。

 そうね……あの子を、優勝した人にトロフィーをあげるような扱いはしないで」

 少し語気が荒くなった。


「それなら、『あくまで彼女にアピールする場であり、優勝者が婚約者になるわけではない』と書き加えよう」


「ええ、そうしてちょうだい。

 それで、何で競い合うの? 剣、馬上槍、体術とか?」


「ああ、しまった。

 貴族だから騎士の御前試合を想定していたけれど、カタリーナはつまらないと言いそうだ。

 それぞれが得意分野で戦う感じにすればいいかな? 流派を問わないというか……」


「――どういうこと?」


「試合の舞台を作って、その中で戦うんだ。倒れるか降参するか、そこから出たら負け。武器は木製のものとする」


 ゲルトルートは少し考え、

「普通に考えたら、そうよね」

 と意味深な言葉を残した。



 夜になり、家族の晩餐が始まった。

 そう遠くない未来に、本当の家族として参加できる日が待ち遠しい。


 カタリーナに試合のことを話すと

「一対一? それとも乱戦?」

 という質問が返ってきた。


「当然、一対一だろう。……え? 団体戦ではなく、乱戦?」

 思わず、下町で喧嘩をしている男たちの絵面が浮かんだ。


「本当の強さは、お上品な大会ではわからないと思うわ」

 見た目は可愛い淑女の口から出る言葉ではないと思う。


 決闘とか男の美学とか……そういうものとは、かけ離れた話になっていないか? なんと野蛮な女なのだ。

「では、どういう大会にしたいのかな?」


「そうねぇ。山頂スタートで、森を抜けてゴール。途中で何かを仕留めて持ってくるの。

 障害物や刺客を配置しても面白そう」


 それはもう、サバイバルだな。貴族令嬢のお相手捜しではなく、兵士や傭兵の訓練だろう。


「カティ、急ごしらえの行事なのだから、そんなに予算はないわよ?

 会場を借りて、怪我人のために医師を手配して、軽食を用意するくらいしかできないわ」

 彼女たちの母が、現実的なことを言ってくれた。

 事前にご両親には話を通しておいてよかった。


 だが、しかし――予算の問題だけですか?

 カタリーナの話がツッコミどころ満載だと思うのは、私だけなのか。


「それなら、次の舞踏会のドレスを作らないで……」

 カタリーナは良いことを考えたというように、明るく言った。


「もう。そんなのとっくに注文しているわ。

 我が家のように爵位が低い者は、先回りして動かないと。高位の方々が無茶を言い出して、後回しにされたら大変よ。

 こんな時期にキャンセルなんて、お店に迷惑でしょう」

 ゲルトルートは店や職人のことまで配慮している。言い方は少しキツいが、優しいのだ。


「そういうことでは、ないかな……」

 私は困った顔を作り、カタリーナの予算流用に対して、柔らかくツッコミを入れておく。


 未来の妹よ。舞踏会に去年来たドレスで行くとでも言うつもりか?

 それは、かなりみっともない。財政が苦しいと見なされ、契約で足元を見られたり……いいことはないのだぞ。


「それならば、大会の方を中止するよ。ただの思いつきだし」

 婿入りする立場で婚家の立場を悪くするなど、とんでもない話だ。

 カタリーナが早く嫁に行ってくれないかと思っただけなのだ。


「いいえ、やりましょう! 低予算でも」

 カタリーナは勢い込んで、賛成してくる。

 ゲルトルートもご両親も、ニコニコと微笑んでいる。



 カタリーナが乗り気になってくれたなら、実行できそうだ。

 彼女が素直に婚約者を選んでくれるか、ちょっと不安は感じるけれど……。


 ドレスをキャンセルしかねない妹の会話を、遮ることなく聞いている当主に目をやった。


「途中の理屈がおかしくても、最終的には常識的なところに落ち着きます。

 心配するより、楽しんで会話を聞いていればいいのです」

 姉妹の父は、ワインを美味しそうに飲んだ。


 大物というか、呑気というか……。


 いずれこの家族のノリを楽しめるようになるのだろうか。

 私の胃に穴が空くほうが先な気がしてきた。


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― 新着の感想 ―
既にどう見ても胃薬が必要な未来予想図しか・・・。 早く小姑だけでも追い出すんだ婿殿、出来れば遠方の国にでも。
舞踏会で無く・・・。 あははは。
婿殿…… 胃薬携帯は必須ですねえ。
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