表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者にすっぽかされていた妹のために、過保護な姉が怒鳴り込みました  作者: 紡里
第二章 婚約者選び

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/18

祭りの後

 出場者と観客を見送った頃には、もう日が暮れていた。

 試合は予想以上に盛り上がり、試合後にさらに盛り上がるという、異例の事態になってしまった。


 多くの人からまた開催してほしいと要望され、一部の方からは「次回は出場の条件を広げるように」とのお叱りもいただいた。

 きっぱりと「次回はありません」と言い切れず、「いや、まあ、なかなか難しいかもしれません」とお茶を濁した。


「トルーデを見習って、はっきり言えるようにならないとなぁ」

 主催者の席で進行表や使用した魔導具を箱に詰めながら、ぼやいてしまった。


「あら、わたくし人の意見を聞かない、押しつけがましい殿方は好みませんのよ」

 ゲルトルートが筆記用具を片付けながら、微笑んだ。


「トルーデぇ―」

 思わず抱きつく。


 今日、司会をしてくれた騎士が呆れたように言った。

「もう、お前ら帰れ。会場の後片付けは騎士団の使用人にやってもらうから」

 しっしっ、と犬を追い払うように手を振られた。


「ああ、そうさせてもらうよ。今日のお礼はまた後日――」


「サラマンダーの切れ端があったら、欠片でもいいぞ」


 冗談めかして言っているが、本当に欲しいのだろう。


「帰ったら、訊いておきますわね。妹のために、本日はありがとうございました」

 ゲルトルートが心からの感謝を伝えた。


「いい相手が見つかって……いや、隣にいたってやつか。

 まあ、お幸せに」




 タウンハウスに戻ると、宴の準備が整っていた。

「お疲れさま会」のはずが、そのまま「婚約おめでとうの会」に早変わりしている。


 両親とも平民との結婚に抵抗はないようで、祝福ムードだ。

 この家の人たちは、本当にこだわりがないな。



「わたくし、ヴォルフ兄さんのお嫁さんになるって、言っていたじゃない」

 主役のカタリーナは、ヴォルフと腕を組んで幸せそうだ。


「本気だったのね」

 ゲルトルートはソーセージにナイフを入れた。プスッと小気味よい音がする。


「カティの気持ちはそうだとして、ヴォルフ君はどうなの?

 結婚してもいいと思っているのかしら?」

 母親がそう訊くと、カタリーナは頬を膨らませた。


「え、いえ……光栄です」

 ヴォルフは頭の後ろに手をやり、照れている。まんざらでもないようだ。


「自分の気持ちは言わないと、この子はどんどん好きなように進めてしまうわよ」

 母親がヴォルフに忠告した。


「お母様! どちらの味方なのです?」


「もう。すぐ、そんなふうに敵味方に分けようとするのだから……勝ち負けじゃないでしょう。困った子」


 そんな母と娘の会話に笑いが起きる。



 盛り上がっている中で、姉妹の父親に声をかけられた。

「二人ともいいかな」


 私とヴォルフだ。


 同じ部屋の中だが、少し離れたテーブルに三人で座る。

 義父(予定)が酒を注いでくれた。それで、侍従が近くにいないことに気付く。

 内緒話か。



「今回の大会は大成功だ。

 すでに次回開催の要望が来ているね」

 にこにこと褒めてくれる。そんな話なら、隅に移動する必要はないはずだ。


「だけど二回目以降を開催するなら、君のご実家か騎士団あたりに主催を譲って欲しい。

 我が家としては、カタリーナの相手が見つかったから手を引くということができるだろう?」


「それは構いません。

 ただ、せっかくの家名をあげる機会です。それを人に譲ってもいいのですか?」

 貴族なのに、家が繁栄する機会を手放すと言っているのだ。欲がなさ過ぎて心配になる。


「もちろん今後も木剣を使うなら、木材と職人を出して領地をアピールしたいと思っているよ」


「はい。頑張ります!」

 ヴォルフが張り切っている。


「ハインリヒ君。我が家は、『森を守る木こり』なんだよ。

 森と水源を守るために爵位を盾として掲げている。

 君にもそれを理解してもらえると嬉しい」

 急に、酔いが覚めるような真面目な話になった。


「たとえば、王家が森から必要以上に切り出せと言ってきたら、反対するための貴族だ。

 そうなったら文字通り、命がけで抗議する。

 平民では訴える場所に立つことも難しいことだろう?」

 義父は、ふふと笑いながらグラスを空け、自分で酒を注ぐ。


 思わず、ごくりと喉が鳴った。

 そんな覚悟で貴族をやっている人間が、どれほどいるだろうか。


「森の中には、脱走兵や食い詰めて逃げてきた者たちが潜んでいる。

 それを退治したり、改心させて働かせたりしてきたんだ。田舎だから貴重な労働力になる。

 中には凄腕の密偵や暗殺者もいた――」

 脅すように声を潜め、密談のように顔を寄せてくる。


 ……な、なかなかきな臭い話ですね、義父様。


「いつの間にか、引退した冒険者たちが集まるようになってきた。

 領主が威張っていないというのが口伝てで広がったそうだ」

 今度はヴォルフを見て微笑み、楽しそうにはしゃぐ師匠の姿に視線を向けた。



「国に便利な駒だと知られて、利用されないように気をつけてほしい。

 人材も森も……。

 領地の森を無計画に伐採したら、痩せた土地は再生する力がない。それに、水質が悪くなる。

 大体は戦の準備で無茶を言ってくるんだ。その兆候を掴んだら、戦の準備ができないよう手を回せばいい」


「え、どうやって……ですか?」

 そんなことが、一介の男爵に可能なのか?


「それは、おいおい伝えていこう。

 もし、功績を上げて伯爵以上の爵位をくれると言われても、断ってほしい。

 国の中枢に関わってはいけない。

 だから、我が子たちは個性的すぎるくらいでちょうどいいんだ。貴族失格と言われてもいい」


 カタリーナを野放図に育てた理由がそれか……!


「ただ、中立を保つだけの政治力もないから、穏健派の派閥に所属している。

 そうすると庇護と義務と無茶ぶりがワンセットだ。

 カタリーナの最初の婚約者はひどかっただろう?

 でも、あまり勘のするどい家ではない方がいいから、引き受けた。派閥に恩も売れたしね」


 人の良さそうな微笑みが、薄気味悪く見えてきた。


「ああ、心配しないで。

 カタリーナを虐げるようなら、やり返すための算段はつけていた。

 貴族の末端らしく、強かに生きていくのさ」

 耳まで赤くして胸を張る姿には愛が溢れている。なんだか涙が出てきそうだ。


「ヴォルフ君。

 もし我々に何かあったら、助けようとせずカタリーナと逃げなさい。

 私たちは、貴族も平民も関係なく家族だ。

 生き延びるのが役割だと心得て――」


 義父上、なんと気高いお覚悟を……!



「お父様、また絡み酒しているの?」

 愛しのゲルトルートが、義父上からグラスを取り上げた。

 侍従が近寄ってきて水を渡している。

 素直にこくこくと飲む義父上。


「意外に悲観主義者なのよね。

『いざ』という時が来ないように、頑張りましょうね、ハイネ?」


「そうならないために、遠くまで木を売りに行って情報を集めているんだから、心配しすぎ。

 わたくしは平民のやり方を学ぶわ。よろしくね、ヴォルフ兄さん?」

 カタリーナがウィンクをして、ヴォルフが茹であがる。



 ――この姉妹には勝てそうにありません。


これにて完結です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


評価や感想などいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんなに深く考えて書かれていたとは⋯! あの大騒ぎから素晴らしい〆かたを披露なされました。予想できない展開に頭が上がりません。 見事な完結、お疲れ様です。面白い物語をありがとうございました。
前回で完結かな?と思っていたので、もう一話読めて嬉しいです。後日譚とか好きなので。 お母さんがブォルフの気持ちもちゃんと聞いてくれるし、お父さんも最後にカッコいいし。姉も優しくてカッコいいし、婿どのも…
やだ父上カッコイイ…!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ