決勝戦
神殿騎士のマティアスが槌、騎士団長の息子クラウスが剣を持ち、舞台にあがった。
どちらも近接戦の武器だ。
槌は威力がある分、初動の動きが大きくなる。
マティアスが振りかぶろうとすると、クラウスは剣でその動きを阻止する。
攻撃が最大の防御とばかりに。
剣で小さな攻撃を繰り返す。手数は多いが、派手さには欠ける。
フェイントで誘い、マティアスに槌を振らせてさっと避ける。
武芸に詳しくない令嬢は、ギリギリの攻防であることがわからない。小競り合いで、あまり面白くない展開に見えた。
「イライラして大振りしてくれたらありがたいんだが」
クラウスはそっと呟く。
冷静に隙を狙われている気がする。クラウスは、大型の獣と対峙しているような感覚を覚えた。
「焦った方が負ける」
クラウスは息を整えようとした。自分の方が動き回って、息が上がっている。ペース配分にも気をつけなければ。
マティアスは半歩下がって、槌を横薙ぎに払った。
クラウスは受け流すように剣を当てて、衝撃を和らげたが、力で押し負けてバランスを崩した。
急いで距離を取り、剣を構え直すが手が痺れている。
当然、マティアスはクラウスが体勢を整える時間など与えてくれない。
走り寄るマティアス。
迎え撃つクラウス。
振り上げられる槌を、上半身を反らしながらクラウスは右側に避ける。
上半身を戻す反動を活かして一歩踏み込み、マティアスの脇腹に一撃を叩き込んだ。
よろめくマティアスの背後に滑り込み、首筋に剣を当てる。
「勝者、クラウス・プーフベルク!」
審判が声を上げた。
騎士団がいる一帯で、歓喜の雄叫びが上がった。
怯える令嬢もいたが、大きな拍手が会場を埋め尽くしてゆく。
クラウスはそれに応えるべく剣を突き上げようとしたが、木剣は滑り落ちてカランと音を立てた。
握力の限界まで戦った証である。
マティアスが近づき、ハグをして健闘をたたえ合う。
拍手がまた一段と大きくなった。
大きな怪我もなく無事に終わったと、ハインリヒは胸をなで下ろした。
「ハイネ、まだ表彰式がありましてよ」
ゲルトルートがぴしりと釘を刺す。
「もう、精根尽き果てちゃったよ。トルーデ」
婚約者に甘える。
「もう、しっかりなさって。素晴らしい催しを最後で台無しにしては駄目よ」
ゲルトルートは背伸びをして、ハインリヒの額を軽く突いた。
「痛いな~」
イチャついている間に拍手が小さくなり、司会をしている騎士に睨まれていた。
ごめんと片手を挙げてウィンクしたら、顔を背けられた。友人でもあるので、後で謝ろう。
ハインリヒは主催者の席から司会者がいるところまで、階段を降りていく。
優勝者のクラウスが立っていた。
「手に汗握る素晴らしい試合の数々、観客の興奮も伝わってきました。
勝利を勝ち取ったクラウス・プーフベルク様にお話を訊いてみたいと思います。
まずは、優勝おめでとうございます」
司会がクラウスに拡声の魔道具を向ける。
「ありがとうございます。
騎士として、このような研鑽を積めたことをありがたく思います」
「では、続きまして優勝者にささやかな記念品をご用意しています」
王女が、後ろに箱を持った侍女を伴って歩いてきた。
確かまだ十歳の少女だが、その歩みは優雅で別格である。
観客席がざわめく。一部の人間が反射的に立ち上がり、頭を垂れた。
ハインリヒも目を丸くした。
お忍びで観戦するって、約束したじゃないですか!
王子も侍女も、なぜ止めない!?




