三位決定戦?
戦ったばかりのクラウスのために、決勝戦までしばし休憩を取る予定になっていた。
それをアナウンスしたところ三位決定戦が見たいと声が上がる。
ディートリヒは腕を怪我しているし、フェリクスは試合が終わったばかりだ。
本人たちの様子をうかがうと、戦いたいらしい。
神殿関係者の中から、治癒魔法を使える神官が手を挙げた。
「僭越ながら、わたくしめが治癒させていただいてもよろしいか?」
超高額、貴重な治癒を、こんな遊びで使うのか? 駄目だろ。
「そのような状態でしたら、自己治癒を優先して、三位決定戦はなしで!」
すっごいブーイングが沸き起こった。
ちょっと、勘弁してくれ。
東の辺境伯が「魔獣討伐なら、これくらいの怪我で前線を退くことはない。我が息子なら、まだまだ戦える」と言い出した。
魔法騎士団からは、「魔力欠乏でもあるまいし、行ける行ける!」と応援が飛ぶ。
え~、みんな好きだなぁ。
でも、大会主催者として怪我人を出したくない。
悩んでいたら、ゲルトルートにチョンと突かれた。
「この大会は、武芸を競うためじゃなくてカタリーナの婚約者を見つけるためのものでしょう?
カタリーナと婚約したら何がしたいか発表してもらうのはどうかしら」
め、女神。心優しく賢き女神がここにいる。
「みなさま。この大会は、武芸の大会ではございません」
観客席や選手たちに盛大な「?」が浮かんでいる。
みんな、忘れていただろう。だが、しかし――
「カタリーナ・グリュンヴァルト嬢の婚約者を見つけるための、極めて私的な大会です」
ああーと、気まずそうにざわめく。そうですよ、思い出してくださいね。
「ですから三位決定戦の代わりに、婚約者になったら何がしたいかを発表してください!」
シーンと水を打ったように静まりかえった。
おいおいおい……。
ゲルトルートが大きな音で拍手。続いてグリュンヴァルト男爵夫妻が普通に拍手をした。
観客席もブーイングしづらくなったようだ。
辺境伯子息ディートリヒと魔法騎士爵フェリクスは顔を見合わせて、困った様子。
倒れるまで戦いたいなら、別の場所でやってくれ。後始末などしたくないぞ。
カタリーナが俺に向かって、親指を下に向けて「不満だ」とジェスチャーをしている。
お前なぁと、文句を言いたくても遠くて会話ができない。
まあ、いい。カタリーナはあくまで主賓で、主催は私だ。
好きに仕切らせてもらう。
二人の選手に舞台中央に立ってもらい、司会者が近づいた。
私の友人で、面白いことが大好きなお祭り男だ。
「では、お二人に質問していきたいと思います。
まず、ディートリヒ・ザルツバッハ辺境伯令息。
カタリーナ嬢と婚約したら、何がしたいですか?」
声を大きくする魔道具を向ける。
「あー、東の辺境をご案内したい。
岩塩が採れるので、料理が旨い……です。焼き魚や茹でたジャガイモも、塩を使い分けて味わってもらいたい」
「おお、いいですね。ビールも有名ですよね。
お次はフェリクス・シュタイン魔法騎士爵。ご令嬢と何がしたいですか?」
「様々な魔法をお見せしたいです。
水魔法で作った魚や、火魔法で作った花などはいかがでしょうか?」
フェリクスは観客席のカタリーナに向かって問いかけた。
カタリーナは腕で大きく丸を作る。
観客席がどっと沸いた。
「魔法、素敵ですね。いやあ、僕も見てみたいな」
司会がそう言うと、拍手が起きた。
「おお。これは、見たいというリクエストではないですか?」
司会が水を向け、フェリクスは「魔法を使って良いんですか?」と訊いてきた。
ハインリヒが、騎士団長に訊いてくれと身振り手振りで伝える。
司会はうなずいて「騎士団長、ここで魔法を使ってもいいですか?」と質問した。
息子が決勝へ進んでご機嫌な騎士団長は、大きくうなずいた。
フェリクスが舞台の真ん中に立ち、目線を下に向けて詠唱を始めた。
しばらくすると、空中に魚や花が現れて、遊ぶように飛び回る。特に令嬢たちの席からよく見えるように、ひらひらくるくると……。
ディートリヒが槍で突くと、魚は形を変え、花は空高く飛んでいく。
観客席ではしゃぐ令嬢たちに応えるように、ディートリヒは槍で演舞を始めた。
力強いステップに、魚がわざと足の下に飛び込む。
パシャリと音がして、飛び散った雫がまた魚に戻っていく。
「子どもたちにも見せたいわ」
と、ご夫人が感嘆の声を漏らした。
婚約者選びという大人向けの大会なので、子どもを連れてきている人は少なかった。
「あ、そろそろ決勝戦の準備が整ったようです。
お二方に大きな拍手を!」
司会は、三位決定戦をうやむやにして終わらせた。
無理に決める必要はないのだから――




