準決勝
順当に、東の辺境伯の子息ディートリヒと騎士団長の息子クラウスが勝ち残っている。
他二名は神殿騎士のマティアスと魔法騎士フェリクスといった、職業軍人だ。
「まあ、場数の違いだな」
師匠は身も蓋もないことを言った。
準決勝の第一試合は、準々決勝を先に終えていたディートリヒとマティアスだ。
戦いが終わったばかりの後の組には、その間に休憩をとってもらう。
ディートリヒは槍を構え、マティアスは槌を構えた。
「似たような武器に見えるわ」
ゲルトルートがそんな感想を漏らす。
「槍は突きで間合いを取る。近付けない状態にして、急所を刺す。
逆に槌は懐に入って叩き潰す武器だ」
ヴォルフがざっくりと解説する。
「あら、逆なのね」
「だから、盛り上がっている。距離を取りたい奴と縮めたい奴――間合いの勝負だ。
それから、槍はしなりがないとすぐ折れる。長いから、軽めのトネリコ。
逆に槌は硬くて重い方がいい。しなったら威力が逃げる。衝撃に強いブナだ」
「わしは槌にはオークを使いたかったんじゃが」
師匠がヴォルフに不満をぶつけた。
「その場で加工しなきゃいけないんだから、オークは難しいって」
「木材にもいろいろな違いがあるんだなぁ」
ハインリヒが感心すると、ヴォルフがニッと歯を見せた。
「若旦那。それはもう、たくさんありますよ。
領地で採れるのが中心ですが、他領と取引して手に入れたのも持ってきました」
「え、それって、お金がかかるよね?」
ハインリヒは、てっきり全てを領地のものでまかなうと思っていたのだ。
「あなたたち、やってくれたわね?」
ゲルトルートが、師匠とヴォルフを睨んだ。
「だってさぁ、いい武器で戦いたいと思うよ。みんな、愛用の武器を使えないんだから」
ヴォルフが言い訳を始めた。
マティアスの槌が唸りを上げる。
ディートリヒは間合いを保とうと、マティアスの胴に突きを放った。
その反動で距離を取り、槍を素早く引く。
そこを狙われた。
重い一撃で槍の中ほどを叩かれ、手に伝わる衝撃に、ディートリヒの体勢が崩れた。
「――っ!」
長い槍は衝撃を逃がしきれず、逆に振り回される形になる。
その隙を逃さず、マティアスが踏み込んだ。
間合いが、潰される。槍の間合いではなく、槌の間合いへ。
槌が振り上げられる。
槍を横に構えて槌を受け流そうとするが、体勢を立て直せていない。
勝負がついたと見て、マティアスは槌の威力を弱めようとした。
それでも痛そうな打撃音がして、ディートリヒが降参した。
歓声と拍手が沸き起こる。
腕を押さえて立ち上がるディートリヒ。
マティアスは二人分の武器を拾い上げた。顔を見合わせて、二人揃って観客に一礼した。
「ほら、いい笑顔」
と、ヴォルフはゲルトルートに媚びるような笑顔を見せる。
「……後で、お話し合いをしましょう」
青筋を立てるゲルトルート。
ハインリヒは青ざめて胃を押さえた。
次の騎士団長の息子クラウスと魔法騎士爵フェリクスは、剣同士の戦いだった。
騎士団と魔法騎士団は普段から犬猿の仲らしく、観客席の応援合戦がすごい迫力だ。
淑女の前で言うべきではない言葉が飛び交っている。
騎士団長が、「場をわきまえろ! お嬢様たちの前だぞ」と一喝した。
ただ、魔法騎士が魔法を使えない状況では、どうしても分が悪くなる。
魔法騎士たちの観客席から、「ああ、ここで魔法を使えたら」という嘆きがあちこちから聞こえた。
決勝には騎士団長の息子クラウスが進んだ。




