午後の試合が始まった
勝ち抜き戦に進んだ十六名が、順にくじを引いていく。
引いた番号が、そのまま出場枠となる。
会場が四つに仕切られ、四組が一斉に試合をする。
その後、残りの四組も同時に試合をすることになっている。
師匠は先の回で、対戦相手は男爵家の嫡男。斧を武器としていた。
「本物の斧だったら、角材なんかあっという間に削られてたな」
師匠は笑いながら、斧と打ち合った。
刃の大きな斧と角材を打ち合わせたまま、にらみ合う。
力が拮抗して、両者とも動けない。
師匠が角材を滑らせて、溝に斧の刃を滑り込ませようと画策する。
それに気付いた嫡男は、師匠の腹を蹴って距離を取った。
すぐに体勢を整えて向き合う嫡男。
一方の師匠は片膝をついて、腰に手を当てている。
残った方の手を挙げて、「降参」と宣言した。
救護班が担架を持って駆け寄った。
対戦相手が慌てて声をかける。
「大丈夫ですか?」
「あんたのせいじゃない。ぎっくり腰かもしれねぇ」
救護班に肩を借りて立ち上がりながら、師匠は苦笑いした。
「あ……お大事に」
そう言いながら、「だから出場しなければいいのに」と顔に書いてあった。
師匠の息子が駆け寄って、そのまま救護班に付いていった。
遠ざかる「年寄りの冷や水かよ」「うるせぇ!」というやり取りが聞こえた。
八試合が終わってみると、次の試合に進めた人たちは、槍、棒術、槌術など打撃系が多かった。
「剣や細剣の人は、木製の武器だと不利になるのか」
ハインリヒが顎に手をやって考え込んだ。
「刃で切れないからのう」
手当を受けて戻ってきた師匠が、そう指摘した。
「なるほど。それは盲点だったな。木製というルール自体が、公平性に欠けるのか」
大会の責任者としては気になる点だ。
「でも、これはお遊びですもの。刃引きしてある剣だって、当たり所が悪ければ血が出るでしょう? 木剣で正解だと思うわ」
ゲルトルートが考えを述べて、その上で付け加える。
「次に開催するなら……とか、考えないでね」
ハインリヒはギクリと肩を揺らした。
「あ……そうだね。すごく盛り上がっているから、つい――」
そんな婚約者に「もう」と文句をつけながら、頬杖をついた。
「カタリーナがちゃんと魅力的な人を見つけてくれるといいんだけど」
「ゲルトルート。あの子のことは、そんなに気にしなくていいよ。
もし、結婚しないのなら、私たちが隠居するときに一緒に連れて出るから」
父親の男爵は、立派な姉であろうとするゲルトルートに声をかける。
「そういう心配をしているのではありません!」
「自分が素敵な婚約者を見つけたから、妹にも味わわせてあげたいのでしょう。でも、人にはタイミングがあるの。
あなたがなんでもかんでも背負う必要はないわ」
母はゲルトルートの背中に優しく手を置いた。
ゲルトルートはおそらく「両親がのんびりしすぎているから、わたくしが……」とでも言いたいのだろう。
そんな言葉を飲み込んだような表情をしていた。
離れた場所で、結婚適齢期の令嬢たちと観戦しているカタリーナを見やる。
一緒に選ぶというより、他人事のように解説してあげているようだ。
本当に一生一人でいるつもりならいいが、考えが変わったときに悔やんだりしないだろうか。
ゲルトルートの心配も、ハインリヒは理解できた。
彼女の幸せを願う気持ちは一緒でも、それぞれに違う考え方を持っている。
結局は、本人がどう考えているか……なのだろう。
意見が違っても、この家族は仲良くやっている。
近いうちにその一員になれることが、嬉しい――とハインリヒは思った。




