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婚約者にすっぽかされていた妹のために、過保護な姉が怒鳴り込みました  作者: 紡里
第二章 婚約者選び

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大番狂わせ

 最後の乱戦は黄色の組だ。

 この組に師匠が入っている。


 年の差も際立っているが、武器がおかしい。ほぼ削っていない角材のままだ。

 熊のような要望も相まって、武芸を習ったことのある人には見えない。


 ところが、師匠は大暴れ。


 まず、有力候補と目されていた南の辺境伯の子息に突進した。

 双剣を構える子息の片方の木剣と打ち合った次の瞬間、木剣が宙を舞った。


「なんだと?」

 子息は驚いた表情を、すぐに戻した。

 残った方の木剣で、師匠の脇腹を狙うが――。

 子息は足元を角材で払われた。

 斜めになった体を蹴られ、場外に弾き飛ばされた。


 確実にトーナメントに進むはずだと思っていた、南の辺境伯の家族たちは言葉を失った。

 まるで大人と子どものように実力差があったのだ。

 武人として研鑽を積み、自信を持って人前に出せる後継者が……。


 南の辺境伯の子息は悔しそうに地面を叩いたが、すぐに師匠の動きを目で追い始めた。



「一番強いから、真っ先に狙われたのよ」

 カタリーナは周囲の令嬢に説明した。


「弱いから負けたんじゃないの?」

 大人しそうな令嬢が、恐る恐る問いかける。


「師匠は強い人と戦いたいの。弱い人を相手にすると、手加減が大変だし楽しくないのですって。

 それに南の辺境伯のご子息は、ただ悔しがるのではなく、強くなるために学ぼうとしていらっしゃる。心は折れていないのだわ」

 カタリーナは、師匠が与えた誤解を解くのも弟子の役目だと思った。

 しかし、「楽しそうに暴れていますこと」と愚痴は出てしまう……。



 師匠は、太い角材をぶん回しながら、二番目の実力者に向かって行った。


「その武器は反則じゃないですか?」

「なんだとう? ちゃんと用意された武器から選んだわい。若いくせに発想に柔軟性がない。戦場では、あるものは全て使うんじゃ」


 三番目の実力者は、次は自分の番だと察した。

 二番目と戦っている間に、師匠を片付けてしまおう――そう考えて、号令をかけた。

「あの師匠を、みんなで囲むぞ!」


 他の参加者はあまりの差に怯え、その意見に賛同した。


「ほほう。指揮官が自然発生したか」

 師匠は歯を剥き、愉快だとばかりに笑った。

「良きかな、良きかな」



 師匠は角材の中央を持っているため、背後から近づこうとしても死角がない。

 槍は弾かれ、懐に入ろうとすれば蹴られてしまう。

 姿勢を崩そうとしても、ひらりと躱されてしまう。


 しだいに挑戦者たちは手数が減ってくる。


「何をしても無駄だという思考に囚われたら、そこで負けだぞ!」

 南の辺境伯の子息が叫んだが、心を奮い立たせることはできなかった。


「おお、いいことを言ったぞ。考えろ。試せ。

 この場なら、失敗しても死ぬことはないからな」

 師匠が若者たちを励ました。


 数人の顔に「あんたに言われたくない」という文字が浮かんだ。



「ただの角材なのに、なんであんなに武器を奪えるんだ?」

 騎士団長は首を前に伸ばして、師匠の武器をじっと観察した。


「角材にへこみがあるみたい」

 背後から王女の声がした。

 王族がこっそり覗けるような窓に、貼り付いているらしい。

 外からは中が見えないが、王女の声が近い。


「ああ、あいつは傭兵王じゃないか? 

 特殊な槍で、穂先が付いていない方で武器を絡め取っていた、あれ。溝に相手の武器をはさんで、ひねりあげるんだよ」

 引退した前騎士団長が目の上に手をかざして師匠を見て、懐かしそうに言った。


「この国に腰を落ち着けていたのか。知らなかったな」

「我が家の家臣に引き抜きたい」

「いえいえ、まずは騎士団の顧問になっていただき、ご指導を……」

 ご隠居たちが盛り上がっている。


「そろそろ腹が減ったな」

 と師匠が呟き、あっという間に数人が場外へ。

 こうして、午前中の集団戦は終わった。


 この黄色の組では、実力上位の者から師匠の餌食となった。

 ……婚約者探しは、どうなったのだろうか。


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― 新着の感想 ―
槍には矢尻はありませんよ。刺したり切ったりする金属部分は穂先、その反対側は石突です。
 最初は角材の状態で用意されてたのか……?  いつの間にか2章になってる!
……婚約者探しは、どうなったのだろうか。 師匠、ひどい(笑)
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