大番狂わせ
最後の乱戦は黄色の組だ。
この組に師匠が入っている。
年の差も際立っているが、武器がおかしい。ほぼ削っていない角材のままだ。
熊のような要望も相まって、武芸を習ったことのある人には見えない。
ところが、師匠は大暴れ。
まず、有力候補と目されていた南の辺境伯の子息に突進した。
双剣を構える子息の片方の木剣と打ち合った次の瞬間、木剣が宙を舞った。
「なんだと?」
子息は驚いた表情を、すぐに戻した。
残った方の木剣で、師匠の脇腹を狙うが――。
子息は足元を角材で払われた。
斜めになった体を蹴られ、場外に弾き飛ばされた。
確実にトーナメントに進むはずだと思っていた、南の辺境伯の家族たちは言葉を失った。
まるで大人と子どものように実力差があったのだ。
武人として研鑽を積み、自信を持って人前に出せる後継者が……。
南の辺境伯の子息は悔しそうに地面を叩いたが、すぐに師匠の動きを目で追い始めた。
「一番強いから、真っ先に狙われたのよ」
カタリーナは周囲の令嬢に説明した。
「弱いから負けたんじゃないの?」
大人しそうな令嬢が、恐る恐る問いかける。
「師匠は強い人と戦いたいの。弱い人を相手にすると、手加減が大変だし楽しくないのですって。
それに南の辺境伯のご子息は、ただ悔しがるのではなく、強くなるために学ぼうとしていらっしゃる。心は折れていないのだわ」
カタリーナは、師匠が与えた誤解を解くのも弟子の役目だと思った。
しかし、「楽しそうに暴れていますこと」と愚痴は出てしまう……。
師匠は、太い角材をぶん回しながら、二番目の実力者に向かって行った。
「その武器は反則じゃないですか?」
「なんだとう? ちゃんと用意された武器から選んだわい。若いくせに発想に柔軟性がない。戦場では、あるものは全て使うんじゃ」
三番目の実力者は、次は自分の番だと察した。
二番目と戦っている間に、師匠を片付けてしまおう――そう考えて、号令をかけた。
「あの師匠を、みんなで囲むぞ!」
他の参加者はあまりの差に怯え、その意見に賛同した。
「ほほう。指揮官が自然発生したか」
師匠は歯を剥き、愉快だとばかりに笑った。
「良きかな、良きかな」
師匠は角材の中央を持っているため、背後から近づこうとしても死角がない。
槍は弾かれ、懐に入ろうとすれば蹴られてしまう。
姿勢を崩そうとしても、ひらりと躱されてしまう。
しだいに挑戦者たちは手数が減ってくる。
「何をしても無駄だという思考に囚われたら、そこで負けだぞ!」
南の辺境伯の子息が叫んだが、心を奮い立たせることはできなかった。
「おお、いいことを言ったぞ。考えろ。試せ。
この場なら、失敗しても死ぬことはないからな」
師匠が若者たちを励ました。
数人の顔に「あんたに言われたくない」という文字が浮かんだ。
「ただの角材なのに、なんであんなに武器を奪えるんだ?」
騎士団長は首を前に伸ばして、師匠の武器をじっと観察した。
「角材にへこみがあるみたい」
背後から王女の声がした。
王族がこっそり覗けるような窓に、貼り付いているらしい。
外からは中が見えないが、王女の声が近い。
「ああ、あいつは傭兵王じゃないか?
特殊な槍で、穂先が付いていない方で武器を絡め取っていた、あれ。溝に相手の武器をはさんで、ひねりあげるんだよ」
引退した前騎士団長が目の上に手をかざして師匠を見て、懐かしそうに言った。
「この国に腰を落ち着けていたのか。知らなかったな」
「我が家の家臣に引き抜きたい」
「いえいえ、まずは騎士団の顧問になっていただき、ご指導を……」
ご隠居たちが盛り上がっている。
「そろそろ腹が減ったな」
と師匠が呟き、あっという間に数人が場外へ。
こうして、午前中の集団戦は終わった。
この黄色の組では、実力上位の者から師匠の餌食となった。
……婚約者探しは、どうなったのだろうか。




