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6 マジで反省してます!指詰めますんで許してください!!!

「あー………うん?」

目の前には阿鼻叫喚の地獄が広がっている。


目に入った糞便の痛みに泣き叫ぶ子供。

鼻に入った糞を指で掻き出しながら、とめどなくゲロを吐き散らかす女。

頭に糞を乗せ狼狽する店員に詰め寄り、口に入った糞を店員の顔面に飛ばしながら怒鳴り散らす男。

全員糞まみれだ。


「……えっと、これ……もしかして俺がやった?」

ガネーシャは無言だ。

ツカツカと糞まみれの店内に入り、噴射された糞尿の圧力で祭壇から叩き落されたガネーシャ像を拾う。

「ごめんね、みんな。僕を信じてくれていたのに…僕は典太君を止められなかった。」

ガネーシャは何やら魔法の力で像に付いた糞を浄化し、祭壇に戻す。

「…願いを聞く、って約束してたからね。僕は願いをかなえる神だ。…こんな馬鹿野郎の願い事でもね。」

店内で絶叫して走り回っていた客は、ガネーシャの姿を見て、糞まみれの姿で動きを止めて静まり返る。


「…やっぱり最初、目じゃなくて脳の方を手術しておけばよかったかなぁ…。ごめんね、みんな。」

俺は何も言えない。

言いようのない後悔の念が襲い掛かる。俺は、正気に戻った。


店内にいた客は、涙を流し始め、ガネーシャに跪く。


ガネーシャの背後から、静かに後光が差す。

その光に包まれた客や、店の備品等が浄化されてゆく。

「…典太君、この人たちを見てごらん。…みんな、救いを求めているんだ。」


ー残念ながらこの国はまだ、君たちの国ほど恵まれていない。

積み重ねてきた長い歴史にも、虐げられて辛い思いをしてきた人たちの血と涙がしみ込んでいる。

…そんな中で僕に救済を求めてきた人たちを、君は笑えるかい?


ー僕は現世利益をもたらす神だ。俗っぽいって思うだろう。

でもそれは、死後の救済を色々条件を付けて現世で約束する他の教えより価値が劣るのかい?

僕の救いを信じて、ささやかな希望を胸に今日を頑張って生きるこの人たちの想いは、間違っていると思うかい?


「君だってそうだよ、典太君。」

ガネーシャは静かに言う。

「君だって、僕に救いを求めてもいいんだ。それは悪いことではないし、恥じることでもない。

…どうだい?君も僕に救いを求めるかい?」


俺は、他の皆と同じように、ガネーシャに跪いた。

ああ、ガネーシャ様……こんな愚かな自分を、お救いください!!!


「さて典太君。今日の君の愚行でだいぶ君のカルマポイントが溜まっちゃったね。

これを現世で浄化するのはちょっと厳しいねえ。

このままじゃティリヤク(動物界)やプレータ(餓鬼界)をすっ飛ばしてナラカ(地獄界)直行だね。


…あと警察が来るよ。

大麻使用で1年、道路交通法違反で1年、悪質な営業妨害で5年くらいかなぁ。

あと民事訴訟による損害賠償。その後国外退去。当然会社もクビのフルコンボだよ。

少なくとも『インション』の称号は回避できるけどね…どうする?」


…。頭がくらくらする。

自然と小便が漏れ、そして一拍遅れて涙が出てくる。

俺は小便と涙を垂れ流しながら絶叫する。

「お救いくださいガネーシャ様ぁ!おねがいじまずぅうう!!!」


***

「ああ、勇者典太よ…あなたは業を背負い、それを償うために…」

例の真っ白い部屋で、椅子に座ったガネーシャの前に俺は立っている。


***

話は戻る。

救いを求める俺の願いを聞いたガネーシャは、ガンジープリズムパワーで炎を纏った電動回転鋸のような円盤を召喚した。


キュィーーーーン……

その円盤は恐ろしい勢いで回っている。

「典太君。これはね、げだつ道具の『スダルシャナ・チャクラ』っていうんだ。ヴィシュヌ先生から借りてきたよ。

これはね、太陽の炎から生まれた、『あらゆる悪を滅ぼす武器』だよ。

さ、典太君。ケジメ付けよ?」

「…あのー、ちょっと待ってもらっていいっすか。」


いや俺は確かに反省している。

…ホントに反省してるよ?それに地獄行きも懲役も回避したいけど…これで何をしろと?

「いいかい典太君。まずはこれで君の体をバラバラにするんだ。

そうすると君、死ぬじゃない?

そしたらね、僕が君をバキュームカー召喚前の時間に蘇らせてあげる。」


…サイコパスだ。この神様、サイコパスだ。

「あれ?典太君。君さっきあれだけのことをやらかしておいて、もしかしてビビってる?」

先ほどガネーシャを前に跪いていた人たちも立ち上がり、典太を取り囲んでいる。

サッサとやれ、男を見せろ!とヤジを飛ばしているものもいる。

…この国の人たちは基本的にノリがよい。だけど俺は見世物じゃねえ。…頼むからそっとしといてください。

「KE~JI~ME!KE~JI~ME!」

遂に集まった人たちの間でケジメコールが始まった。


俺は日本人だ。同調圧力には弱い。

…意を決した俺は円盤に飛び込み、五体をバラバラにされた。

『カシャコン』

カウンターが音を立てたような気がするが、目の痛みを感じる前に俺の意識は虚空へと消えていった。


***


一呼吸おいて、ガネーシャが続ける。

「…あなたにはこの異世界、インド共和国に転生する機会を与えましょう。」

俺はボソッと言った。

「…お願いします、ガネーシャ様…。」


***


気が付くと俺は、ビール瓶を片手に振り上げた状態でガネーシャの背後に立っている。

「あのー…ありがとうございます。ガネーシャ…様。」

「ああ、お帰り。典太君。見事な散り様だったよ。あのあとみんな大爆笑して、乾杯してたよ。」

やめて…聞きたくなかった。恥ずかしい。


「それで…ガネーシャ…様。振り出しに戻ったわけですが、どうしましょう?」

「うーん、どうしよっかあ?」

何か言うことあるだろ?え?という表情でガネーシャ様は俺を見ている。

「あの…このような愚かな私を、お救いください!」

「しょうがないなぁ。…ガンジープリズムパワー・メークウィッシュ!」


…俺は、登記局の審査官の前で立ちすくんでいる。

何故かいきなり登記局の審査官執務室にテレポートさせられた。

突然虚無から現れた日本人の姿に、審査官は茫然と立ち尽くしている。


「…あのー、うちの商号申請の件なんですけど…。」

隣にはおそらくトイレにでも行っていたところを俺と同じように飛ばされたのであろう、下半身を露出したコンサルの担当者も立っている。

…呆けたような顔をしていた担当者は、下を向くと慌ててズボンをずり上げ、通訳する。

感服に値するプロフェッショナル魂だ。


登記局の審査官は怒りだす。

「ダメだって何回言えばわかるんだ貴様ら。それよりどっから入ってきやがった。警備呼ぶぞコラぁ!」

…まあ、そうなるよね。

さてこれからどうやってここから出ていこうかと考えていた時、天井から一筋の光が注ぐ。

「パオーン!」

まばゆいばかりの後光を纏ったガネーシャが、宙に浮いていた。


審査官は突然のガネーシャの登場に、暫く呆然としていた。

そして顔を歪めて涙を流し始め、大きく屁をこいたあと、その場に跪いた。

コンサルは寸止めしていたであろう膀胱が決壊し、滂沱の如く小便と涙とよだれを垂れ流して恍惚の表情を浮かべ、痙攣している。


「…我が信徒、ラジクマールよ。汝の敬虔なる信仰心に応え、このガネーシャ、ここに我が姿を現すなり。」

ガネーシャが厳かな声で語り出す。

審査官ラジクマールの表情は見て取れないが、涙を流して震えているようだ。


「…ここに座す者もまた、敬虔なるわが民なり。

ここに汝の助けあらば、この者の願いもまたここに成就する。

さすれば、汝にもまた我が慈悲を示さん。」

「ハハァっ!!!仰せのままに!!!」

ガネーシャは静かに天を指さした。


ガネーシャの後光が増し、

…天井から、500ルピー札が雨あられと降り注いだ。


***

センチュリー22インディアの商号は、ガネーシャが審査官に賄賂を支払い買収する形で承認された。


「いいかい、典太君。お金というのは、人類が生み出した叡智だ。」

俺は今日の出来事を思い返す。


「君の国では穢れたものと考える人も多いようだけど、それで救われる人がいるのは事実だよ。」

まずガネーシャが商号申請の流れを説明し、そのあと目が痛くなった。


「…お金は、神聖なものなんだ。」

それからガネーシャが痛みを取るために、違法薬物を出し…おん?


「そしてこの国ではね、時にお金は特別な意味を持つんだ。」

それからその違法薬物を飲んだ俺はおかしくなり…おん?おぉん?


「…そう、お金の力を借りれば、ある程度ルールを飛び越えて…」

「てめえこの野郎!マッチポンプじゃねえか!!」


俺はガネーシャに殴りかかろうとしたが、その前に右目を押さえて床に崩れ落ちた。


今回の願い事 2回

残りの願い事 993回

反省──

それは、己の業が燃え上がり、ついに身も心も裂け果てたのち、その裂け目の中にひとつの影を見つけ、静かにそれを撫でる行にございます。

人は間違いを犯します。大きく、激しく、そして痛々しく。

そして──ふと沈黙の中で、自らの足跡に気づくのです。

それが反省にございます。

反省とは、懺悔とは違います。

懺悔は他に向ける。反省は己に返す。

その行為が、己の煩悩を自ら見つめる道となり、そこにこそ御仏の慈悲の光が差し込む隙がございます。


栄西禅師も、かつてこのように言われました。

「広く衆生を度して、一身のために一人解脱を求めざるべし」


反省とは、自身のためだけに在るものではなく、己が背負った業によって、他に何を為したか──

その問いに答えようとする静かな決意でございます。

間違えてよい。傷つけてしまってもよい。

されどその後で己を見つめ、静かに問い続ける心こそ、仏の救いに届く道にございます。

拙僧は、怒りも愚かさも身に宿しながら、それでも反省の光に手を伸ばす者。


その手が震えていようと、汗で濡れていようと、一筋の反省があれば、御仏はいつでもそこにおられる。

――反省は、仏に届く祈りのかたちにございます。――合掌。

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