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2 なめんじゃねぇ!屠殺すんぞコラァ!!!

「…おいおいおーい、大丈夫かい?」

間のぬけた声の主を殴りたくなり、俺は目を覚ました。

頭がビリビリする。


先ほど床にこしらえた小便の水たまりの上に尻餅をついて気を失っていたようだ。

股間と足と背中が冷たい。

…床は明日メイドさん(男)が来て、ベランダの鳩のフンを拭った雑巾で綺麗に拭いてくれるから、漏らした事は忘れよう。

そしてメイドさん(男)はその雑巾を濯いだ水を、周りの食器に飛び散らせながらキッチンのシンクに捨てるのだ。


酔っ払って見た幻覚かと思ったが、残念ながらそいつはまだ目の前にいる。

片側の牙が欠けたゾウの頭を持つそいつは、テーブルの上にある期限切れのポテチの袋を勝手に開け、ポリポリ食っている。


「ああ、勇者 典太よ。私はこの世界の神、ガネーシャ。其方は酔っ払ってしまい、この異世界 インド共和国に転せ」

「言わせねえよ。いくらなろうでもやめてね。」


この神、軽い。

…ところで、俺の頭に変なバンドが巻かれ、そこから電線が数本伸びており、その先に深夜の通販で売ってるようなインチキ健康器具のようなものが繋がっている。

「あのー、神様?ところでこの、俺の頭に付いてるこれ、何かな?」

「ああ、それね。げだつ道具の、『パーフェクト救命イニシエーション』、略して『AED』だよ。僕の脳波を注入して、気絶している人を起こすんだ。でも女の人には使っちゃいけないよ?」

「名前、カスってもいねえぞ。あとそういうマジで怒られそうなのやめてよね。」

俺は繋がっていた配線を引きちぎり、頭に巻かれているバンドをゴミ箱に叩き込んだ。

バンドが巻かれていた部分の髪の毛が一部、剃られて10円ハゲが出来ている。

今すぐこいつをぶっ殺したくなってきた。


「ところで典太くん、なんだか君、悩んでるみたいだね。

僕はこの国のとっても偉い神様だからさ、この国に来て困ってる人を見るとほっとけないんだよね。

僕は自信をもって保証するよ。この国はいい国だよ。君はきっと好きになる。

そしてこの国の人たちの素晴らしさもわかってほしい。」

急に真面目なことを言う。

「だっていっぱいお布施くれるんだよ?」

やっぱりこいつ殴る。


「そんな訳で、典太くんには、この国に来てよかったなって、思ってほしいんだ。

だからね、僕がちょっとだけお手伝いしてあげる。

君の願い、何でも一つ叶えてあげるよ?

僕はみんなに試練に打ち勝つ力を与えて夢を叶える、幸せの神様なんだよ。」

なんかいい事言ってたみたいだけど、俺はどうやってこいつをぶっ飛ばすかを考えていたので、よく話を聞いていなかった。

「…聞いてる?典太くん?願いを一つ叶えてあげるよ?」


あ、神様らしい事言ってたんだ。

だけどこのふざけた神様モドキ、絶対碌でもない大道芸でもやって、俺をコケにする気だろ。

俺はこいつが怒りそうなことを考えた。

「じゃあ、願いを叶えてもらう権利を1000個に増やしてください、神様。」


パオーン!

いきなりデカい声で怒鳴られた。

しかしこいつの顔はゾウの頭なので、こいつが怒っているのか、激怒しているのか、エクストリーム大激怒しているのか、表情が読めずわからない。

「典太くん…それ、『ローバ(強欲)』だよ。強欲は解脱への道を遠ざける、重罪だよ?

…君には代わりに、1000カルマポイントをチャージしちゃおっかな?」

超いらねえ。さっきお布施貰えるのを喜んでた奴がどの口で言うのか。


さっさとお帰りいただこう。

「じゃあ要らねっす。願い事、『お前を消す方法』でいいんで…」


「…ただね、こういう教えって大抵、昔の人の知恵なんだよね。

ほら、昔って人類の生産能力低かったじゃん?そんな時にみんなローバってたら、社会終わるじゃん?だからこういう戒律って、社会を維持するための制御棒だったんだよね。

でも今は違う!資本主義の力で生産能力を爆上げした人類にとって、欲望は次の時代を更に豊かにする原動力だよ!ローバは正義!ガネーシャ、全力で応援しちゃう。

いいよ、君の願い、叶えてあげるよ。願い事1000個に増やせばいいんだね?」


いやお前を消す方法…


「うーん、でも1000個もあったら、残りの願い事が何個か分かんなくなっちゃうね。

…そうだ、あれを出そう。」


ガネーシャの雰囲気が変わった。

精神統一しているように見える。

あたりの空気が張り詰める。

そして徐々に、部屋の照明が暗くなってゆく。

「あ、ムシカちゃん、そっちにもあるからね、パチってやって」

眷属のネズミにスイッチ消させているだけだった。


「ガンジープリズムパワー・メークウィッシュ!」

唐突にガネーシャが叫ぶ。

やめて…俺の子供時代の淡い恋心を穢さないで…

その時、あたりから青白い光の粒子が集まり始める。

ガネーシャの手には、2m程の三叉の槍が生成されていた。

先端は天井に突き刺さり、シーリングファンを破壊している。


「奇跡も魔法もあるんだよ。これはね、げだつ道具の『トリシューラ』っていうんだ。シヴァさんから借りてきたよ。」

どうでもいいがシーリングファン直せ。そして物件オーナーさんに謝ってこい。

「今からこれで君の目を手術して、網膜に願い事の残機カウンターを刻み込んであげるよ。」

「ハぁ?今何つったこのサイコ畜生神、そんなことしなくていいからお引き取りうわやめてほられる」

俺はベッドに連れて行かれて4本のうち2本の腕と長い鼻で押さえつけられ身動きが取れず、恐怖のあまり小便を漏らした。

「欲望との向き合い方」これは御仏の教えの中でも、ことさらに大切にされているものでございます。

欲望は煩悩となり、煩悩は迷いを生み、迷いは道を見失わせる。

されど、欲望を否定するばかりでは人は空虚となり、業を果たす力を失ってしまう。


御仏は言われました。欲望を制するのではなく、欲望を見つめることが修行であると。

そこに我執を滅し、慈悲の心をもって欲を調える術がある。

拙僧といたしましては、本章を通じて皆様にこの御仏のご意志を少しでもお伝えできますれば、これ無常の幸甚と思う次第に存じまする。

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