19 事務所完成!一家名乗りじゃ!!!
「やればできるじゃねえか、乃木ぃ!…あと、おめでとさん。電撃婚だなァ!ガハハハ!」
先週はこれぞパワハラのイデアともいうべき激詰めをかましてくれた明石取締役は、一転上機嫌に口座開設の労をねぎらい、俺の結婚を祝福する。
「…先週のアレはふざけるのも大概にしろと思ったが、結婚式のスピーチのことで頭が一杯だったということか…。まあ、おめでとう、乃木君。
しかし君、凄いな…。
あと、口座開設、よくやってくれた。」
今日も禿げ頭にモニター画面を反射させている大山常務。
いつもはこの通り冷静な人だが、キレると一番やべー人だというのは先週分かった。
「いやー、お前のカミさん、ぶっ飛ぶような美人だなぁ。ええ?
まったく、祝電入れる間もなく式挙げちまいやがって。人事の連中発狂してたぞ?
…とにかくおめでとう。お前も身を固めたな。幸せにな。」
ありがとうございます、伊地知専務。
ようやくスピーカーの入れ方、分かっていただいたんですね。
今日の本社とのWeb会議は、懸案だった口座開設も無事終わったこともあり、結婚報告会のようなWeb会議になった。
「では乃木君。今週中に稟議書を通し、センチュリー22の口座に資本金を振り込むよ。
デリーオフィスの物件探しと、社員の採用を進めてくれたまえ。」
俺はサプナとの新生活の準備に追われつつ、センチュリー22インディアの本チャンデリーオフィスの物件探しと、従業員の採用を進めていた。
*****
銀行にいるサプナから連絡が入った。
どうやら本社からの資本金送金が完了、着金を確認したらしい。
これからFIRC(Foreign Inward Remittance Certificte/外国送金着金証明)の発行を進めるとのこと。
そして俺は、廃墟の中、不動産屋とセンチュリー22インディアのデリーオフィスの内装を打ち合わせている。
この国では基本、契約前の不動産は内装が何もないことが多い。というか廃墟そのものだ。
床には前の入居企業が撤収時に残していったであろう廃材が散らばり、天井からは電線が垂れ下がり、壁は剥がれて穴が開いている。
「典太さん、これがこんな感じになるんですよ。」
フラウドギブマネーの子会社の不動産業者、フラウドスティーラー不動産の営業とデザイナーが、タブレット端末を立ち上げて過去に手掛けた物件の内装を表示している。
その写真はとても現代的で、とても今典太が立っている廃墟がここまできれいになるとは思えなかった。
しかも、契約後3週間で工事を完了するという。
日本では考えられないくらい早い。
「典太さんは日本から来られたんですよね。この間契約していった日本のお客さん、こんな内装にしていかれましたよ。」
――重厚な鉄の扉。
床は黒光りするフローリング。
無駄な装飾は無く、整然とした無機質な内装。
正面には一枚板の重厚なテーブル。
その背後には革張りのソファ。
壁には達筆な墨書で『誠』の文字。
その隣には紋付袴の正装の、強面の男の写真と、金縁のその団体のロゴが額縁に収められて飾られている。
隅には神棚があり、榊と塩が備えられている。
その下には一振りの日本刀が飾られている。
そして至る所に設置された無数の防犯カメラ。
「馬鹿野郎!組事務所じゃねえか!!却下だ却下!!!」
俺はタブレットの組事務所写真に大きくバツを付ける。
「そうですか…だいぶ満足されてましたよ?いっぱいバクシーシくれました。」
つまりこのおっかない人たち、この不動産屋の営業エリア内に事務所を構えてるってことだよなぁ…。
典太は背筋に冷たいものを感じながらも、一番無難な内装を選び、これで進めてくれと依頼した。
*****
「典太さん、オフィス、できましたよ。」
3週間後、不動産屋から連絡を受けた俺は、センチュリー22インディアの本チャンオフィスに確認に向かう。
――重厚な鉄の扉。
床は黒光りするフローリング。
無駄な装飾は無く、整然とした無機質な内装。
正面には一枚板の重厚なテーブル。
その背後には革張りのソファ。
壁には達筆な墨書で『誠』の文字。
その隣には紋付袴の正装の、典太の合成写真と、金縁のセンチュリー22インディアのロゴが額縁に収められて飾られている。
隅には神棚があり、ガネーシャ像が祀られている。
その下には一振りの日本刀が飾られている。
そして至る所に設置された無数の防犯カメラ。
俺は卒倒し、床に倒れると小便を漏らした。
*****
いきさつはこうだ。
この国の人たちは、仕事の投げ方が超絶雑だ。
フラウドスティーラー不動産の営業は、俺がバツを付けた案を含む、タブレット内の提案資料を丸ごと社内の担当者に転送。
その後口頭で説明したようだが、『相互理解を重視し、社内の担当者が正しく理解したか確認しながらすり合わせ』ではなく、『資料を投げて電話をかけた』というフェーズで自分の仕事を完了したと判断。
以前どこかのヤクザが組事務所を建てた際にいたく感激された成功体験から、『日本人にはこれが刺さる』という先入観もあったようだ。
社内の担当者は『バツ印』を『これで決定』と理解。
その後は社内の担当者が下請け先に、『前のお客さんと一緒』という指示で発注。
その下請けはヤクザの親分の写真を額縁に入れて飾っていたが、これに気づいたフラウドスティーラーの担当者の判断で俺の合成写真に差し替え。
結果、センチュリー22組デリー事務所が出来上がったという訳だ。
勿論キレ散らかして抗議した。
しかし…やり直しにはなぜか追加費用がかかるのと、オフィスの引き渡しが3週間後になるのと、その分の家賃もかかるとのこと。
俺はもう一度卒倒し、今度はクソを漏らした。
*****
「…と、いう訳です。本当に、すみませんでした!」
センチュリー22デリーオフィス。
装飾品の日本刀を握りしめ、俺は本社に繋いだWeb会議の画面に向かって頭を下げている。
いつもは雲上人3人が相手だとアウアウ言ってしまいまともな会話にならないが、何というか、こう…いろいろありすぎて、もうどうでもいい。いざとなったらそこの日本刀で腹を切ってやるとヤケクソになったら、度胸が湧いてきて堂々と話せるようになった。
いつもの取締役3名は、口をあんぐり開けている。
「んー、まあ、いいんじゃない?」
明石取締役が口を開く。
「ああ、お前知らんかったか。ウチの社長、任侠映画の大ファンだ。
社長室見てみろよ。今お前のいる部屋みたいだぞ?」
えっ?こんな反社の組事務所みたいなとこで良いんですか?
思わず俺は声をあげるが、伊地知専務が口を開く。
「乃木君、君の仕事場はどこだ?
…そう、お客様のところだ。
ウチのモットーは現地・現物・現況の三現主義だ。
オフィスに引きこもっているようじゃいかん。
お客様のところへ行け。現物を見て、触れ。現況を肌で感じろ。
だから極論、私はオフィスなんてどんな所でもいいと思っている。」
残りの二人もそうだそうだと頷いている。
まあ俺達も営業畑の出身だ、下手をすりゃ客先に泊まり込んで、オフィスに帰ってくることなんて滅多になかったよな?と過去の武勇伝を語り始めた。
「それに乃木君、私たちは予算と開所時期については君に指示をした。
だが、内装についてあれこれと指示をしたことはなかっただろう?
…君がやりやすければ、別に刑務所でも組事務所でも構わないよ。」
本当にこれでいいのかと俺は思う。
でも、上はいいと言っている。
何はともあれ、センチュリー22インディアのデリーオフィスは無事社内の承認を得た。
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反社とは、ただの組織にあらず。
それは人の煩悩が形を持ち、社会の隙間に巣食う「業の淀み」にございます。
金を貪り、怒りに任せて拳を振るい、迷いの中で義理を語る──
その姿は、仏道より遠く離れた、三毒の舞台に他なりません。
反社がもたらすものは、恐怖と混乱、そして人の心を蝕む闇。
その存在は、社会の秩序を乱し、弱き者を踏みにじるものでございます。
さればこそ、拙僧は申します。
反社とは、断じて肯定すべきものにあらず。
その道に生きることは、己の業を深め、輪廻の苦しみを重ねることに他なりません。
しかしながら──仏の慈悲は、選びませぬ。
親鸞聖人はこう仰いました。
「悪人こそ、仏の救いに最も近き者なり」と。
罪を犯した者、道を外れた者──
その者が、己の業を見つめ、悔い、願いを持つならば、仏はその願いに耳を傾けられる。
反社の名の下に生きる者が、ある日ふと拳を下ろし、「このままではいけない」と願うならば──
その瞬間こそ、仏道への第一歩にございます。
南無阿弥陀仏の呼びかけは、清き者のためだけにあらず。
泥に咲く蓮の如く、穢れの中にこそ、誠は宿る。
反社とは、煩悩の権現にして、社会の病。
されど、その病を見つめ、癒そうとする心があるならば──
そこにこそ、仏の光は差し込むのでございます。
今日、誰かが罪を犯し、誰かがそれを悔い、誰かが「人として生き直したい」と願う。
その願いに、仏は微笑まれる。
その願いに、我らもまた、耳を傾けるべきでございます。
反社とは、断ずべき煩悩なれど──
そこに誠が芽吹くならば、それは灯明ともなり得る。
──合掌。




