13 しゃらくせェ!口座くらいサッサと作らんかい!!!
「乃木ィっ!やったじゃないか!…いやー、お前ヒンディー語も出来るし、もうインドはお前にお任せでいいな!あと10年くらいは居れるな!」
Web会議で明石取締役がいつものように大声でガハガハ言っている。
…ヒンディー語は出来ません。あと10年もいたくないっす。
「そうすると乃木君、ひとまず登記に関しては当社のアクションはもうないね。あとは登記局の事務手続きだけか。
…ありがとう、乃木君。よくやってくれた。設立証明書が出たら、報告してくれ。」
大山常務は言うことは冷静だが、いつもハゲ頭にモニターが反射しているのが気になり、何を言っているのか入ってこない。
「ありゃ?またミュートか?…おーい、乃木ィ!」
伊地知専務、まずはパソコンの使い方覚えてください。
先日、異教徒カップル誕生のオマケで、センチュリー22の設立申請が承認された。
今日のWeb会議はその報告会なのだが…
例によって「ガネーシャが審査官を女とカネで買収して設立申請承認取れました」等言えるわけがなく、ゴニョゴニョ言ってたら勝手に解釈してくれて、「ガネーシャ信者の審査官と個人的な友人となり、スナックのような店で飲みに行ったら設立申請が通った」という話になんとなくなった。
「乃木ィ!お前も人ったらしだなァ!期待してるぞ!頑張ってくれ。」
…違います。全然たらしてないです。どうやったらそういう理解になるんですか…。
***
数日後、フラウドギブマネーの新しい担当者、ムスゴパルから電話が入った。
「典太さん、おめでとうございます。COI(会社設立証明書)、出ました!」
この日、センチュリー22インディアは法人としての産声を上げた。
…ああ、よかった………くねぇ!!
空の冷蔵庫を前に、俺は骸骨のようにガリガリに痩せて横たわっていた。
…カネ……カネがねえっ!!!
***
俺にはまだ、この国の銀行口座がない。
また仮に俺の口座があったとしても、そこに給料を振り込むセンチュリー22インディアがまだ存在していない。
赴任支度金を使い果たした俺は、日本のカードでのキャッシングで現金を手に入れ、生活していた。
…しかし先日、俺のカードはバラナシのATMに呑み込まれ、俺の手を離れた。
その後ガネーシャの母・第三形態が取り戻して来てくれたが…
「INSUFFICIENT CREDIT. TRANSACTION DECLINED.」
なんと、これまで俺の生活を支えてくれたATMが、俺への資金提供を拒否してきた。
…どうやら海外キャッシング枠を使い切ったようだ。
それならとカードでの直接の買い物も試みたが、これまたダメだった。
…どうやら俺のカードをATMから取り出した奴がショッピング限度額まで使ったらしい。
やばい。マズい。マジで金がない。
「ガネーシャ様…おカネ…ください。」
大丈夫だ。俺にはこいつがいる。俺は縋るような気持ちで、ガネーシャにタカった。
しかし…
「典太君、それは出来ないよ。」
なんと、ガネーシャに突っぱねられた。
なんでも、『カネ』というものについては、人間から神へ布施の名目で流す分には宇宙の理にかなっていると。
しかしその逆、神から人への直接のカネの流れは、違う。
先日のワイロパワーは、『申請を通すための袖の下』という名目だったのでこの場合のカネはあくまで手段であり、問題ない。
しかし『人間が試練に打ち勝つ力を授け、願望を成就させる』というスタイルの神であるガネーシャの場合、無条件に直接人間にカネを出した場合、その人は『試練と闘う』というプロセスを経ずに結果物を手にすることとなり、神としての前提に反するという。
…そんなわけで、俺は今、餓死の瀬戸際に立っている。
「でもね、COI出たんでしょ?よかったじゃん。これで君の会社も、やっと給与支払いの口座開けるよ?あと君の口座も、そろそろ開設着手してもいいんじゃないかな?」
俺は、ガバっと飛び起きる。
…そうだよ!今までが異常だったんだよ!口座開いて、普通に給料振り込んでもらえばいいじゃないか!
俺は銀行に電話をかけ、営業員を俺のアパートに呼び出した。
…そして、挫折した。
「はい、こちらの書類それぞれにサインしてください。それから、PANと、FRROと、賃貸契約と…」
口座開設申込書類のボリュームがエグい。A4用紙5枚程度にびっしり書くところがある。
「あ、こちらには貴方の御父上のお名前を書いてください。…そしてここに証明写真を貼ってください。」
…俺が今書いているものは、銀行口座開設の申込書という理解で合っているんだよな?
「…それから、日本の住所を証明するものが必要です。日本の免許証ありますか?」
俺は免許を持っていない。
いや仮免なら持ってた。出国前に自動車学校に通っていたが、赴任が決まり泣く泣く退校した。
ついでに納車間近のフォレスターもキャンセルした。
…免許…フォレスター…免許…
空腹の中頭を使いすぎていた俺は、低血糖でぶっ倒れた。
***
「ああ、勇者典太よ。其方は空腹の中無い頭を使い、失神してしまった。さあ、異世界、インド共和国に転せ
「あのー、もういい加減くどいんで、やめてもらっていいっすか」
…お互い暫く無言ののち、俺は目を覚ました。
「ガネーシャ様…免許証偽造してください。」
「典太君、神の力で違法行為をするとどうなるか、こないだ学ばなかったの?」
いやあれは半分はお前のせいだった訳で…。
「しょうがない、ガンジープリズムパワー・メークウィッシュ!」
…するとそこには、胡散臭い男が現れた。
そしてガネーシャは、3万ルピーの札束を出して俺に渡す。
「ありがとうございます!ガネーシャ様!これで飯が食えます!ここに祭壇を築いて貴方を祀ります!!!」
「…いや、何言ってんの典太君。僕は君に直接おカネを渡したりできないって言ったじゃん。」
…え?じゃあこれは…?
「あ、君の証明写真とこの3万ルピーをね、さっき僕が召喚したスレシュ君に渡してね。
そうすると彼、替え玉受験でインドの免許証を取ってきてくれるよ。
そしたらね、日本に連れて行ってあげるから外免切替で日本の免許証を貰ってこよう。
…言っとくけど、ピンハネしてネコババしたらダメだよ。
着服した金額分のカルマポイント+10%のボーナスカルマポイントをあげちゃうよ?」
回りくどいわ!
…俺は泣く泣くスレシュ君に3万ルピーを支払った。
腹が鳴っている。
今回の願い事 1回
残りの願い事 980回
釈尊の言葉にこうございます。
「水が一滴ずつでも滴り落ちるならば、水瓶でも満たすことが出来るのである」
これは、小さな善き行いも、積もれば大きな功徳となるという教え。
金もまた、使い方次第で、煩悩の火にも、慈悲の灯にもなるのでございます。
金を持てば欲が湧く──それは自然なこと。
されど、『煩悩即菩提』という言葉がございます。
煩悩をそのまま悟りに転換すること、つまり、金に執着する心を、施しの心へと転換するならば、それはすでに仏の道を歩む一歩となるのです。
法然上人はこう申されました。
「富貴なる者は、貧者を憐れみ、施しをもって仏道を修すべし」
金を持つ者は、それを誇るのではなく、他者の苦しみに寄り添うための道具として使うべし──
それが、仏の教えにございます。
金は悪ではございません。
されど、金に心を奪われるとき、仏は遠ざかる。
財布を開くとき、「これは誰のための一枚か」と問うてみませう。
その問いの中にこそ、仏の灯がともるのでございます。
今日もまた、金を使うたびに、その一枚が縁を結び、命を支える舟となりますように。
──合掌。




