11 アイ アム ア ボーイ!ジス イズ ガネーシャ!!!
ガチャリ…
『どこでもゴープラム』のドアが開く…
「…What do you want to be in the future?
I want to be a dentist…
I want to be a flight attendant…
Let's go!」
…袖の破れた学生服、瓶底眼鏡、「合格」と書かれた日の丸鉢巻きを纏い、無精ひげを生やした典太が扉からぬらりと出てきた。
***
やってらんねえ…
典太は参考書が山積みの学習机に座って英語の猛勉強をしている。
…どのくらい時間が経っただろうか。発狂しそうだが、気を抜くわけにはいかない。
典太の背後には、げだつ道具の『マハーセーナ精神注入棒』を握りしめたガネーシャが背後に控えており、少しでも間違えたり居眠りをすると撲殺される。そしてまたこの部屋に転生させられる。
…何度転生させられただろうか。
『ーExcuse me, do you know if the library is open today?
ーYes, but only until 5 p.m. because of the holiday.
ーI see. I’d better hurry then. I need to return some books.
ーYou can also use the drop-off box outside if you’re late』
机上のスピーカーから英会話が再生される。
『Question: What does the man decide to do?
A: Look for another library
B: Return the books later
C: Go to the library before 5 p.m.
D: Ask the woman to return the books』
…フン、「リターン サム ブックス」と聞こえたぞ。
俺の耳は誤魔化せん。
答えは『B』だな。
俺はマークシートの『B』を塗りつぶす。
その刹那、俺の頭部はガネーシャに叩き潰され、転生ルームでガネーシャと対峙する…
何度そのようなピストン転生を繰り返したことか。
だが俺はやり遂げた。
震えて待てフラウドギブマネー。ガン詰めしてやるわ。
***
…俺は頭を抱えている。
話の流れはこうだ。
マヘシュは退職前に一応当局のポータルに書類のアップロードをすることはした。
しかし…そのときエラーが起きた。
このポータル、ちょこちょこエラーが起きる上、一度エラーが起きると4時間申請不可という謎の仕様という名のバグがある。
…マヘシュがエラーに気づいたのは自らの死亡届を出し、自席に戻って荷物の整理を始めた時だった。
マヘシュは、無視した。
その後事態に気づいたフラウドギブマネーは、別担当者がアップロードを再試行。
これにあたり、取締役の伝家の宝電子サイン・DSCを行使する必要があったが、俺はその時バラナシで身ぐるみを剥がされており不通。
この担当者は俺に「電話をかけた」という事実を以て任務完了と判断。
センチュリー22の設立申請書類アップロードの話は忘れ去られた。
…まあこの程度ならフラウドギブマネーの新しい担当者をどやしつけて再アップロードさせれば済む。
これはいい。
真の問題は、書類不備が発覚したことだった。
センチュリー22の本チャンオフィスはまだ物件が決まっていないため、俺のアパートが仮オフィスということになっている。
それ自体は大した問題ではない。
問題は、このアパートの大家がNOC(異議なし証明)を提出していないことだった。
このアパートの所有者はドイツ在住だ。
問い合わせへのレスポンスは壊滅的に終わっており、こちらからの要求には何の返答もない。
ヒンドゥー教の力の及ばないドイツ在住のため、ガネーシャのご都合主義魔法の力も通用しない。
…困った。詰んだ。
「諦めたらそこで試合終了ですよ?」
振り向くと、ガネーシャが静かに椅子に座っている。
…後光が差して見えた。
「ガネーシャ…様…。俺、助かりますか?」
ガネーシャは静かに天を指す。
「僕は願いを叶える神だよ?」
***
「ぺっ」
…あれしかねえと思っていたのに…。
「NOCが無いのなら失せろ。キリストこそが道であり、真理であり、命だ。…さて、そこにいるお前は何だ?」
新しい登記局の審査官、ジョセフの目には、背後に浮かんで後光を放つガネーシャの姿は、異物としてしか映っていなかった。
***
「典太君。この国ではね、登記局審査官は神の代理人だよ。…その裁量は、神の力に等しい。」
ガネーシャは、静かに言う。
…アレ、やるしかねえな。
「ガネーシャ様…お願いします…。」
『カシャコン』
カウンターの作動音とともに、空間が歪む。
…俺は登記局審査官執務室で右目を押さえてのたうち回っている。
目の前にいる男は、前回商号申請を承…認…?したラジクマールではない。
…後から知ったが、彼は収賄で逮捕されていた。
そしてヒンドゥー教徒でもない。目の前にいるのは、キリスト教徒のジョセフ審査官だ。
突然虚空から生えてきた俺達に驚きつつも、背後で後光を放ちながら浮かんでいるガネーシャの姿を蛆虫でも見るような目で苦々しく見ている。
「…汝ジョセフよ。ここに座す者は…」
「ぺっ」
ジョセフは苦々しそうに唾を吐いた。
「貴様らどこから入ってきた?…キリストの恩寵を解さぬ背教者が。まあイエスの愛は深い。用件だけは聞いてやる。」
…インドは世界有数のキリスト教国でもある。
クリスチャンには、ガネーシャの神通力も通用しない。
「………。」
ガネーシャは沈黙している。
今回の願い事 2回
残りの願い事 983回
異教とは、道を異にする者にあらず。
それは、ただ「祈りの言葉の順番が違う者」であり、ただ「光の差し方が違う者」であり、ただ「天を見上げる時刻が違う者」にございます。
それらを「異」なると断じるとき──我が心にこそ、無明が芽生えます。
道元禅師はこう説かれました。
「世の中において敵とみるものもまた、慈悲の種を持つ。敵とみるその心こそ、汝が縛である」と。
異教と聞いて眉をしかめることは簡単にございます。
されど──それは煩悩を育てる反射。
異教とは、「己と違う道を歩む者を、どう迎えるか」を問う鏡。
その鏡に映る我が姿を、正しく整えることこそ、御仏の説く「見の修行」にございます。
その道にて、「違いを拒まず、違いの中に同じ痛みと同じ慈悲を見る」ことが解脱の最初の一歩にございます。
今日もまた、違う祈りに耳を傾ける――そのような一日となりますように。
――合掌。




