恐怖
い、いやっ!
真魚はすくみ上がった。
彼女の頭の中に、急速に広がったもの。
それは恐怖だった。
「こ、恐い!恐いよ~っ!お願い、だ、誰か助けてっ!」
思わず叫び声を上げる真魚。
何か得体の知れない恐ろしいものが、自分の身に迫っている。途方もない恐怖に、真魚の体は凍りつき 体がガタガタと震えだした。
自分が泣いていると意識する余裕もないまま、 真魚は大声を上げて泣き出した。
恐い、恐い、恐い、恐いっ!
もはや五感が感じる事が出来るのは、純粋な、恐ろしい程純度の高い恐怖だけだった。
に、逃げなきゃ!
真魚は、トイレのドアを開け放つと、腹這いになって寝室に向かった。
ベッドに、ベッドに行かなきゃ!
理由は分からなかった。
だが、真魚の本能が、ベッドに行きさえすればこの恐怖から逃れられる、そう、彼女自身に訴えていた。
恐ろしさのあまり、立ち上がる事は出来なかった。
震える体は、意志に反してなかなか言う事をきいてくれない。
たった数メートルの廊下が数百メートルにも感じられた。
だが、真魚はこの恐怖から逃げ出したい一心で、永遠にも感じられる時間の中、必死で寝室に向かって進んでいった。