噛みつきたい
だが・・
ノースリーブの肩口から真魚の目の前を真っ直ぐに伸び、吊革を掴んでいるその女の細く美しい白い腕に目を移した真魚は、その瞬間頭の中に芽生えた自分の感情に、更なる驚愕を覚えずにはいられなかった。
こ、この腕に・・
この白い腕に噛みつきたい・・
柔らかそうなこの腕に歯を深く食い込ませ、肉を食いちぎりたい・・
このか細い腕の骨を・・
骨をバキバキと噛み砕きたい・・
感情だけではなかった。
真魚の口の中は急速に唾液で溢れ、口を強く閉じないとダラダラとこぼれ落ちそうな程だった。
いやああぁぁぁ~っ!
や、やめてええぇぇ~っ!
真魚は心の中で叫びながら、たまたま停車していた電車を飛び出し、ホームのベンチに頭を抱えて座り込んだ。
わ、私・・
私、どうなっちゃうの・・
体の変調に加え、頭までおかしくなってしまった。
こんなおぞましい事を考えるなんて・・
半ばパニック状態の真魚。
しかし、そんな彼女に更に追い討ちをかける事態が起こった。
”いや、お前だけじゃないよ。誰でも最初は混乱するのよ。仕方ないわ・・”
えっ!?
だ、誰?
真魚の思考に反応するかの様に、突然何者かが彼女に話しかけてきたのだ。
真魚は驚いて顔を上げた。
しかし、辺りを見回しても近くには誰もいない。
幻聴!?
確かに今の自分はまともではない。
幻聴くらい聞こえても不思議はない。
そして、その声はまたしても真魚の思考に応える様に語りかけてきた。