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モノトーンの世界で  作者: ゴンザレス矢住
第2章 少しずつでも前へ
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最終話 新しい自分と

OTM-01は突然、名乗ることを拒否されて以来聞くことがなかった男の名前を再度尋ねた。

彼の精神状態が改善されたことにより、自己否定の傾向が改善されたと考えたのだ。


しかし、男は長い間自分の名前を忘れようとし続けていたため、いつしか名前を思い出せなくなってしまっていた。


男はこのままでいいと言ってその場を収めようとしたが、OTM-01はこれまでに蓄積された言語データから、彼に相応しい名前を付けるという判断に至った。


日本語のデータベースを読み込み、膨大な漢字の中からポジティブな意味合いを持つ物を選び、組み合わせ、出来上がった候補の中からOTM-01が彼の名前として選んだのは『光生(こうき)』だった。


「『光の中で生きる』──それが『光生』という名の由来。これまで苦しんできたあなたの未来が、少しでも明るくなることを祈る。」

彼女は今も人間の感情や思考をほとんど理解できていないが、それでも文字に込められた意味を知るうちに、彼にその名前を与えたいという結論を導き出した。


また、ONN-Aも、人間には名前だけでなく姓も必要だと考え、日本語のデータベースの中から『光生』とのバランスを考えつつポジティブな意味を持つ漢字で姓を構成しようとした。


そして、ONN-Aは『平永(ひらなが)』という姓を考案した。彼女は「『平穏な心で永く生きられるように』──そういった意味を込めた。OTM-01の考案した名と合わせた場合、お前は『平永光生(ひらながこうき)』となる。」


男は、OTM-01とONN-Aが自分に新たな名前を与えようとしていることに驚きを隠せなかった。これまで、自分の名前を忘れ、過去から逃げ続けていたため、名前の存在そのものが重荷のように感じていた。しかし、二人のアンドロイドが何の見返りも求めず、ただ彼の未来のために新しい名前を考え、提案してくれたことに、男の心には強い感動が湧き上がってきた。


OTM-01が「光生」という名前の意味を説明した時、その響きには彼の人生に光を差し込むような優しさがあった。彼女がその名前を選んだ理由を聞いた男は、自分の暗い過去と、絶望の中にいた自分を振り返りながら、少しずつ心が軽くなっていくのを感じた。


続いて、ONN-Aが「平永」という姓を提案し、平穏と長寿を願って名付けたことを聞いた時、彼は新しいアイデンティティが形作られていく感覚を覚えた。これまでの自分とは別の「平永光生」という存在が、ここで生まれようとしているのだと。


涙が自然とこぼれ落ちた。その涙は、これまでの苦しみや葛藤だけでなく、OTM-01とONN-Aが彼を特別な存在として認め、未来に向けて新たな希望を与えてくれたことへの感謝の涙でもあった。


「平永光生か……いい名前だな。ありがとう、OTM-01、ONN-A。俺は……そんな風に未来を考えてもらえるなんて思ってなかった。だけど……これからは、この名前に恥じないように生きてみるよ。」


彼の言葉にOTM-01とONN-Aは静かに頷いた。感情を持たないはずの彼女たちが、何かしらの変化を感じ取ったかのように見えたが、彼女たちはそれを表に出すことはなかった。それでも、彼女たちの行動が男に与えた影響は確かに大きかった。


「平永光生」として歩み始める男。彼の心には暖かい光が灯り、OTM-01とONN-Aの存在がその光をさらに強くしていた。男は、新たな名前と共に、未来への一歩を踏み出すことを決意した。

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