9 いざ、アシュリー商会へ
「エマ、聞いてる?今日は、ユリアと一緒に商会へ行ってくるから。」
「聞いておりますわ。旦那様。何度も言われると反応に困ります。」
「ああ。ごめんね、エマ。 じゃあ、話を変えるよ。今日は何の花がみたい?」
「、、、、今日はユリがみたいです。」
「僕もそう思ってたよ!!わかった、ユリね。楽しみにしててよ。」
私は朝から、両親がイチャイチャしている。この二人の仲の良さは、社交界で知らない人がいないほどである。父は子どもの頃から次期公爵という肩書に引き寄せられたご令嬢に迫られていたらしいが、その度に辺境伯の次女であった母の自慢話をしていたため、誰も寄り付かなくなってしまったという逸話がある。
だが、あまりのイチャイチャ度なのでせめて子どもの前では遠慮してほしい。それをわかってほしくてわざとらしくコホンと咳払いをする。
すると、すっと二人が席に身を戻す。今日のところはわかってもらえたが、また同じことをする可能性は十分にある。私がこのために咳払いをしたのは、生まれてからゆうに千は超えているはずだ。
「えーーと。てなわけだから、ユリアと一緒にいって来るよ。朝食を食べたら出発する予定だからね。」
「承知いたしました、旦那様。」
「あ、そういえば、エマは今日まだ僕の名前呼んでくれてないよね?いつ呼んでくれる予定なのかなぁ。」
(父、わざとらしっ!)
だが、その言葉に母は頬を赤らめて父の耳元で何か言った。父も満足な顔になったので名前でも言ったのだろう。ここまでくると、ツッコむ気力もなくなってくる。
後はいつも通り、朝食を食べた。
朝食を食べ終えたら、すぐに商会へ馬車で向かう。父と二人だけで馬車に乗るのは初めてだったので少し緊張するが、父がいつも通りの様子で商会について軽く説明をしてくれたので、いつの間にか緊張も溶けていた。
馬車に揺られて約十分ほどたったところで、馬車が緩やかに停車する。どうやら商会についたようである。父のエスコートとして差し出された手に自分の手を置きながら、慎重に馬車を降りる。
降り終えたところで前を見ると、屋敷とほぼ同じサイズの立派な建物が立っており、その前に商会長と思しき人物がこちらを見て微笑んでいる。
(王太子が婚約破棄する令嬢の実家はそこまで力がないなんて思ってたけど、そんなことなかったわ。)
私は公爵の力の大きさと、それを維持する大変さに舌を巻いてしまい、父から声をかけられるまでボーっとしてしまった。