12 昔の父のこと②
二年ぶりに姿を現した公爵様は、二年前のお姿と全く異なっていました。貴族の令息らしい服を身につけ、たくさんの護衛騎士に囲まれている方を、かつてのように名前で軽々しく呼べるはずがありませんでした。この地域の領主は公爵家であったので、ガキ大将も私も公爵家の騎士の隊服を知らないわけがありませんでしたから、もう二度ともとの関係に戻れないことを脳みそに叩き込まれた気分でしたね。
私たちが、身分を意識して一歩下がってしまったんですよ。きっと公爵様は、しばらく忙しくて来られなかったうちに、嫌われたとか思われたのでしょうが、そんなことは全然なくて、ただ私たちが器用でなかったがゆえに、寂しい顔をさせてしまったと今でも後悔しているんです。
あ、あと、公爵様は私が公爵様の本を読むことを許してくださいました。なんでも、
「ハリーは頭がいいのにもったいない。せっかくだから、本を読んで商売でも始めたら儲かるんじゃないか?」
とのことです。お陰で、平民ながらこの商会に勤めることができました。
結果、何が言いたいかと言うと、公爵様は今も昔もお優しいのです。
◇◇◇
父の昔の話なんて初めて聞いた。執事のベインから公爵邸をよく脱走していた。という話は小さい頃から面白い話として聞かされていたので、脱走先がハリーさんたちのところだったのね、と納得する。
また、ハリーに会ってからずっと抱いていた違和感に気づく。それは、父がハリーさんのことを親友だと呼んだいるのに、ハリーさんは父のことを公爵様としか呼ばない。
親友なら、名前とか親しみを込めた名で呼ぶはずだから。
だけど、父はハリーさんに名前で呼んでとお願いできない。父は公爵だから、命令にしかならない。これはきっと本意ではないはずだ。
それに、ハリーさんは父に名前で呼んでいいか聞けない。昔の話に出てきたように、絶対的な公爵位に父がいるから。
父には政敵と事業で縁ができた者しかいない。だから私は、親友が必要だと思うんだよね。
だから私は《お父様、ハリーさん 仲良し大作戦》を実施することにした。
これは私が好きなように生きる、第一歩目だ。