鳥の呪い
すみません。現実が忙しく、体調も崩してしまい、かなり遅くなってしまいました。現実の方もまだ忙しいため、投稿の方は遅れます。
本当に申し訳ございません。
ちょうど木と同じ高さで翼を動かす鳥の呪いは新葉とウサギを見下ろしていた。ウサギは本を脇の下に挟むように持ち、新葉は杖を両手で握り締め、鳥の呪いの前に立った。
「さあ。まずはあの鳥の呪いから行くよ」
「でもどうすればいいの。私はやり方を知らないよ。契約を結ぶって、どうすればいいの?私の時と同じことをすればいいの」
「それは新葉のやり方次第だね。僕には分からないよ」
ウサギはノリノリの様子だが、新葉は冷や汗をかいていた。頭の中が色々混ざる感覚がして、新葉は契約のことを聞くが、ウサギは答えを言ってくれない。新葉は深い絶望感に襲われた。そして、それに追い打ちをかけるように鳥の呪いが動き出した。翼を激しく動かしたと思ったと同時に突風が吹き荒れ、新葉の体は浮き、後ろに飛ばされた。枝が体に当たり、新葉は衝撃を受けたと認識すると、手を伸ばし、木の幹に体を押し付けた。周りを見ると、ウサギが木の枝に引っかかっているが、すぐに吹き飛び、別の枝に引っかかるのを繰り返していた。
「新葉。早くしないと、新葉も吹き飛ばされるよ」
「でもどうすればいいの!契約とか言うけど、分からないよ!」
「とりあえず、あの鳥の呪いの姿を見るのはどう?何か思いつくかもしれないよ」
ウサギは落ち着いているが、風に負けないくらいに大きな声で言うが、新葉の頭は焦りでいっぱいだった。新葉は必死に木の幹にしがみつきながら声を上げる。ウサギの助言となるか分からない言葉だったが、今の新葉はウサギの言葉に従うしかなかった。新葉は木の幹から顔を上げ、左に動かし、鳥の呪いを見つめる。鳥の呪いは翼を激しく動かしているが、時々翼の動きが遅くなることがある。その時に鳥の呪いは悲痛な声を上げていた。新葉は耳を澄ますが、風の音しか聞こえなかった。悲痛な声が何度も聞こえていくうちに新葉は体を動かした。左手と少し動かし、次に左足を少し動かし、その次に右手と右足を少し動かすというように掴まる位置を変えていった。風が当たると手や足が浮くが、すぐに木の幹につけ、少しずつ風の当たる正面へ掴まる位置を変えていった。新葉の背中に風が当たるようになり、新葉は顔を上げた。悲痛な声が大きくなったが、何を言っているのかは聞こえない。新葉は耳の中が乾燥するように感じながらも耳を澄ました。
「……に…び……い…」
「こ…ら…たい」
新葉は一つ一つ声が違うと思い、声の残す言葉を溢さないように意識した。風の音が小さくなっているが、新葉は気づかず、耳を澄まし続けた。
「空を飛びたい」
新葉の奥で白い光が瞬いたのが見えた。見えないピースがハマった音が聞こえた感触と同時に新葉の頭の中で言葉が溢れた。
「まだ生きたい」
「自由に飛び回っていきたいよ」
「ここから出たい」
「置いていかないで。遊ぼうよ」
新葉は溢れた言葉をかみ締めるかのように一つ一つを思い返す。新葉の心に呼応したのか鳥の呪いは鳴き声を上げた。一つに聞こえるが、雀や鳩、鴉、雛鳥といった様々な鳥の鳴き声があり、新葉の心にどの声が自分のだと伝えていた。新葉は声を聞き終えると、ウサギの話した呪いのことを思い出す。呪いは様々な感情からできるものである。新葉は雀や鳩などの多くの鳥の鳴き声とそれらの声が告げる言葉で理解した。新葉が気づいた時には鳥の呪いが翼をゆっくり動かしていた。新葉の体は木の幹に押し付けられた。顎が赤くなる感覚がするが、新葉は再び腕に力を込めた。体が別の方向へ流されようとするが、爪が食い込むほど指にまで力を込めた。強い風でも体はしっかり動く。新葉は上半身を木の幹から離した。手のひらには杖を挟んだ状態であり、痛みが走るが、新葉は気にしなかった。新葉は正座のような体勢で鳥の呪いを見つめた。鳥の呪いは翼をずっと動かしていたが、時折息を整えることがあった。息を吸うような仕草をした時、鳥の呪いと新葉の目が合った。新葉は何も言わず、鳥の呪いも翼を動かすのを止めた。風が止まり、新葉の体に重力がかかった。木の幹から完全に離れたが、視線を鳥の呪いから逸らすことがなく、足を地面につけた。鳥の呪いもゆっくり地面に降りた。両足に土の感覚がすると理解すると、新葉は走り出した。新葉は鳥の呪いから視線を全く動かすことがなかった。鳥の呪いは翼を完全に閉じていた。だが、新葉が翼を動かせば届くほどに近づくと、一歩後ろに下がった。新葉は鳥の呪いの大きな足跡が視界に入り、足を止めた。鳥の呪いは警戒を強めたらしく、翼を上げた。
「あ…あーのぉ…」
新葉は口元が震えていたが、声を張り上げた。ただ、風で吹けば飛びそうな声であり、可笑しかった。新葉の頬が少し熱くなった。だが、新葉は頬の熱を持った部分を叩き、もう一度大きく口を開けた。
「あの!空をもっと飛びたいのですよね!」
新葉の声が届いたらしく、鳥の呪いは視線を向けた。新葉は見つめ返し、深呼吸をし、声を出した。
「私は空を飛んだことがありません!だけど、青空が綺麗で飛ぶ鳥さんたちが気持ち良さそうと思っていました!日の光を浴びていて、気持ち良いって、思う時があるから。暑いと思う時もあるけど、鳥さんたちはみんなで自由に飛んで、日の光を浴びるのが好きだったのでしょう!」
鳥の呪いは翼を閉じ、座るような姿勢になると、相槌を打った。見上げると、空はオレンジ色になり、鳥の呪いの風よりも冷たい風が吹いてきた。
「あなたの風には困っていたけど、温かかったんだね。私は何をしたらいいのか分からない。でも何かしたい。ごめんね。こんなことしか言えなくて…」
新葉が目を細め、顔を下に向けると、鳥の呪いが新葉の顔に押し付けるように翼を擦り付けた。すると、手の中にあった杖が光り始めた。新葉は記憶の片隅になっていたが、ちゃんと持っていた。
「どうやら今みたいだよ。契約とか言えばできるから」
木の枝に干されたような状態のウサギが声をかけてきた。新葉はウサギに視線を向けるが、それ以上何も言ってくれなかった。何を言えばいいのか分からない…。契約の仕方とか適当過ぎる…。新葉の目が潤んできたが、目の前に大きな光が見え、すぐに拭った。新葉の体を覆うくらいありそうな緑色の瞳が新葉を見ていた。
「…契約とか言われても…困るよね…」
新葉は苦笑いしながら鳥の呪いに声をかけた。すると、鳥の呪いは首を横に振ると、目を閉じ、新葉の方へ顔を伸ばした。新葉は口を開けた。
「……もしかして、契約してもいいって、こと…なの?」
新葉の言葉に鳥の呪いは答えなかった。新葉の手にある杖は光り続けていた。新葉は杖の光と鳥の呪いを見比べ、息を大きく吐いた。私にはまだよく分からないけど、やってみるしかないみたい…。私なりにやってみよう。
「契約します。私はあなたを傷つけません。困った時に手を貸します。友だちのように仲良くしたいです」
「……可笑しな契約だな」
「契約と言われても分からないよ。だから私が大切そうだと思ったことを言ったの」
新葉は何を言いたいのか分からなくなりながら声に出した。鳥の呪いは返事をするように鳴いた。同じだと言ってくれているようで心が温かくなった。近くで聞いていたウサギは呆れている様子であり、新葉は少し口を尖らせた。ただ、杖の光が強くなった。目の前が見えなくなるくらいの光を放ち、新葉は目を閉じた。瞼の向こうが暗くなった気がして、目を開けると、両手に乗るくらいの大きさの緑色の石があった。
「これは緑色の石……?」
「契約した証だよ。その石から呼んだら来るみたい」
「あの子は何処に……」
「鳥の呪いはこの本の中だよ。ほら。この空白だった場所に絵があるよね。この新しい鳥の絵がさっきの鳥の呪いだ。ここで休んでいるんだよ。……なんかまだ聞きたいことがあるみたいだね…」
新葉は緑色の石を両手で包み、流れるように本の絵にも視線を向けると、ウサギに顔を近づけた。ウサギは口元を引きつらせていたが、最後に息を大きく吐いた。新葉にはまだ聞きたいことがあり、ウサギの目から視線を外さないようにしている。
「…分かった。質問は帰ってからにしよう。もう帰らないと、夜になる。夜は今も出歩くと、良い顔をされないんだよね。はい。ランドセル。あの時に飛ばされたけど、回収しておいたよ」
「家で教えてくれるよね」
「ホントだよ。だから今は帰るよ」
ウサギは肩を落とし、山を下りようとした。しかし、新葉はその場から動かなかった。ウサギの言葉に渋々納得した様子を見せ、吹き飛ばされたランドセルを受け取っていた。足音が聞こえないことに気づき、ウサギは振り向いた。鳥の呪いと契約した場所にいたまま新葉は俯いていた。
「早くしないと、家に着いた時には夜になっているよ」
「…その前にこの子の名前は何って、いうの?」
新葉は緑色の石を見せながらウサギに聞いた。ウサギは首を傾げていた。新葉にとっては名前を知らないことに気づき、悩んでいたのだ。たくさんの鳥の声が聞こえたけど、この子に名前はあるのかなと。ウサギはゆっくり言葉にした。
「僕たち。呪いに名前なんてないよ」
「…それなら私がつけてもいいかな」
「いいんじゃない」
予想通りの言葉に新葉はすぐに声を上げた。新葉の勢いにウサギは逆の方向に首を傾げた。
「じゃあ。言うね。あなたはウィンね。それであなたがリースよ」
「……リースって、僕の名前?」
すると、新葉は左手に緑色の石を乗せ、右手にウサギを乗せた。ウサギはリースという名前に疑問符を浮かべていた。その時、本が光を放ち、表紙のところにリースという文字が浮かんだ。リースという文字がはっきり見えるようになると、本が開き、鳥の絵にもウィンという文字が入った。
「…………変な人間だね」
リースは口を中途半端に開けていた。笑顔で緑色の石と鳥の絵に話しかける新葉はリースが人形のように動かないのを見て、首を傾げた。