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プロローグ


申し訳ありません。投稿の時に電波の調子が悪く、本文の修正を何度もしていました。この状態で完成となっています。

よろしくお願いします。





夕暮れの光が部屋を淡く照らし、新葉わかばは窓際に腰掛け、赤く染まる空を見つめていた。温かい光に包まれ、白い肌の顔が焼けるような熱を帯び始めているのを感じながら新葉は昔のことを思い出し、あの時はベランダでよく見た、と呟いた。新葉は母親と二人三脚で支え合いながら生活してきた。だが、母親は頻繁に男の人達を小さなアパートの一部屋に迎えていた。その時、新葉は男の人達が来る前にベランダに出されることになる。母親はいつも仕事だと言い、耳栓と毛布を渡す。新葉は耳栓を入れ、毛布に包まり、男の人が出ていった後、部屋に入る。物心ついた時からそうだった。新葉はその度に寂しさや不安を感じていたが、自分の感情を押し殺し、母親の事情を受け入れようとしていた。 大雨が降ると、必ず雨漏りする家で成長してきた。だけど、小学校に入る準備をする頃、母親の再婚が決まった。今度は雨漏りのしないアパートに引っ越し、新しい父親と一つ年下の一輝いっきという弟が加わり、新葉の心は期待と不安で揺れていた。

「これで少し生活が楽になるわ。それにあちらも奥さんが病気で亡くなって、大変みたいで私達と暮らすことは都合が良いみたいよ。これでしばらくは大丈夫ね」

「…そうなんだ」

母親と義父は利害の一致で成り立った関係であり、あまり深入りする気はなかったらしい。だけど、新葉は新しい家族が気になった。ずっと母親と一緒であり、母親以外の人と触れ合うこともなかった。どんな人達か知りたくて、最初は慎重に接することにした。 揃うのはご飯の時ぐらいであるが、一輝とは家にずっといて、接する機会が多かった。一輝は無口であり、新葉が話しかけてもほとんど言葉を発さず、初対面はぎこちないものだった。特に義父も一輝も睨んでいるように見える目つきであり、新葉は目が合うと、口が動かしづらくなった。だが、寝癖のある黒髪に隠れていても一輝の視線は新葉の方を向いているのが分かり、新葉は自分から積極的に話しかけた。すると、一輝は頷くといった反応を見せてきた。気づいてからは少しでも親しみを持ってもらえるように笑顔を浮かべ、新葉の声しか聞こえない空間でも距離感を縮めようと毎日話しかけていた。話題は食べ物のこととか天気のこととか色々だった。

「一輝は好きなものとかあるの?私は鳥とか動物を見るのが好きだよ」

「…動物は俺も好き。あと、テレビに出てくる実話」

そして、一輝から初めて返事が来た。その日から新葉はテレビを見るようになった。新葉はテレビを見たことがなく、テレビの光が眩しかった。ただ、新葉の心に残ったのは新葉より年上の女の子の服が可愛くなり、杖を振る姿であり、一輝とは別の物を好きになった。だけど、新葉と一輝は一緒にテレビを見ていた。好きなものをどっちも見て、感想を一言ずつ出した。

「一輝が一番気になっている話は何なの?」

「昨日昼にやっていた事件の話。本になっているとか聞いたし、ちょっと気になる」

「お父さんに頼んで、買ってもらうことはしないの」

「親父はよく家を抜けているし、頼んでも金がねえって言うだろう。あの人もそう言うだろうし」

新葉の質問に答える一輝の表情は真っ黒な目が遠くに行っていて、諦めているように見えた。新葉は一輝の言葉を否定できなかった。一輝の言うあの人である母親が新葉に渡すのは小さくなったり汚れがひどかったりして着られない服の代わりの新しい服や食べ物くらいだった。周りは欲しかった物を買ってもらったという自慢を聞くが、新葉達のところは必要最低限になる。宿題を終えた新葉は緑色の鉛筆を片付け、一輝の隣に座った。すると、一輝が新葉の方を向いた。

「一輝は本が好き?」

「さあ。家にずっといて、テレビを見るぐらいしかないから。だけど、今はつまらなくなってきた。それで本は…代わりになるだけ」

一輝が息を大きく吐き、テレビに向き直った。新葉も一輝から視線を逸らし、机の上に置いていた貸出カードが視界に入った。新葉は学校のことを思い返し、決意した。次の日、新葉は図書室から借りた本を一輝に渡していた。本は先生から聞いた実話が載っているものだ。

「この本は実話だって聞いたの。買ってないから返さないといけないけど、一、二週間くらいは読むことができるよ」

新葉は笑顔を浮かべていたが、心臓は聞こえたらうるさいほど鳴っていた。新葉から一輝の表情は跳ねている黒い髪で見えなかったが、渡した本を抱きしめ、小さい声でありがとう、と言っていたのが聞こえた。本を渡してから晩御飯の時間になるまで一輝は本を手放さなかった。風に揺れる度に髪が揺れ、見えた一輝の目に光が灯っていた。それから新葉は母親に図書カードを発行してもらうことになり、図書館でも本を借りるようになった。新葉は学校の帰りに図書館に寄り、自分の分と一輝の読みたい本を借りていた。一輝との会話も増えることになった。だが、義父との距離は縮まらなかった。どんな仕事をしているのか新葉も一輝も知らなかったが、義父の帰りは二日に一度か三日に一度であり、真夜中なことが多かった。新葉は限られた時間の中で義父にも自分から接していた。一輝と話すようになり、一輝も義父とあまり話すことがないと知ってからは一輝を連れ、話しかけた。一輝は義父のことをあまり気にしていないという態度を取っていたが、義父のいる日は義父を視線で追っていた。一輝と義父の時間を作ろうとしながら新葉は義父のことを見ていた。だが、義父は一輝のことを見ている時に別の物が映っているような目をしていた。新葉にはどういうものか分からなかったが、自分の子どもを見る目とは違うと感じていた。

そして、新葉の努力が報われることはなく、月日が流れ、ある日を境に義父と母親は帰ってこなくなった。

「新葉。なんか元気がねえけど、お腹空いてる?」

「大丈夫。ちょっと考え事をしているだけだよ。それより、一輝の方が疲れているでしょう。今日は頬っぺただね」

「…転んだだけだ」

一輝が心配そうに声をかけてきた。表情には出ていないが、声音で分かった。新葉は首を振りながら台所に向かい、荷物を下ろす一輝に言った。すると、一輝は新葉から視線を逸らした。一輝が小学生になり、数ヶ月経った時、義父も母親も新葉達に何も言わず、いなくなった。義父は仕事の関係で帰らない日があったが、母親が何の連絡もなく、行方をくらませる日が来ることはなかった。普通なら警察に連絡するはずだが、昔から母親に何があっても警察へ連絡するのは駄目、と言われていた。新葉は疑問を抱いていたが、母親に問い詰めることはなかった。家族を壊したくなかったし、母親が自分のためなのだと何度も言うのを見て、新葉は口を閉じることにした。心配だったが、まだ義父に連絡するという方法があり、最初は少し余裕があった。しかし、義父も帰ってこなくなった。

「放置することが多かったし、捨てられたんだろう。もしかしたら二人で夜逃げしたかもな」

帰ってこなくなって二週間くらい経った時、一輝は待ち続ける新葉に言った。一輝は動揺せず、淡々としていた。だが、新葉は違うと思っていた。一輝が義父と母親をどう思っているかは分からないが、新葉は利害一致で成り立った関係だと知っていて、都合が悪くなったら離婚することを母親から聞いていた。一輝は諦めているが、新葉はもう少し待つことにした。




続きも作成したので、是非読んでもらえたらありがたいです。



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