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Neo Universe  作者: 林朋子
9/11

9th world ~自分主義社会~

「冷た。」

足が冷たく感じ僕は思わず、ジャンプした。でも思ったほど飛べない上に、ゴツゴツした石を踏んで、痛かった。どうやら膝下が川に浸かっているようだ。

「どうしたのですか?」

ガンちゃんは平然とした顔で僕に聞いてきた。

「川の水が冷たくて。」

「確かにそうですね。」

「ロボットも感覚あるのですか?」

「もちろんありますよ。また状況により、OFFにすることも出来ます。」

「ふ~ん、便利ですね。とりあえず上がりましょう。」

足元に気をつけながら、川岸へと向かった。

「うわー」

小太郎さんの声がして、振り返ると、小太郎さんが尻もちをついた状態で出現していて、溺れそうになっていたので、慌てて手を握り持ち上げた。

「あ、そんな深くないのか。急に水の中だったから、びっくりしちゃった。」

川岸に着き、みんなの顔を見て、

「とりあえず、新世界無事到着、おめでとうございます。」

と僕は言った。

「いや~キング君を信じて、あの世界を抜け出せて嬉しいよ。」

小太郎さんは爽やかに微笑んだ。

「さあ、まずは情報収集です。」

一番慣れている僕が自然と率先するようになっていた。

「どっちに行けば良いですか?」

「そうですね。人が居る方です。と言っても森の中で道も無いので、まずは川に沿って下りましょう。そういう所に村、街が出来やすいですから…でも、僕なんかがリーダーみたいにあれこれ言うのは、ちょっと違いますよね。」

「違わないよ。」

「私も小次郎様もキング様が居たから、この世界に来ています。既にリーダーですよ、私達の。」

「そ、そう?そういう立場に立ったことが無くて、面倒かけるかも…」

「面倒かけていいさ。一番年下だからな。でも一周しているその経験は、この中で一番だから、頼りにしている。」

小次郎さんがそう言って、僕の方を見た気がしたが、僕は慣れない立場に恥ずかしくて、そちらは見ずに、進行方向の川下を見て、

「よし、行きましょう。」

と声をかけた。


10分ほど歩くと、森の中に小屋があり、そのそばで木を切っている男性が見えた。

「話を聞いてみましょう。すみませ~ん。」

男性がこちらを一瞥し、手を止めた。

「どうした?」

「ゲートって分かりますか?」

「ゲート?何だそれ。」

「瞬間移動出来るものです。」

「ああ、街に行けば、そんなものがあった気がするな。この川を下っていけば、街があるよ。」

「ありがとうございます。」

そう言って僕たちは男性にお辞儀をして、街へ向かった。

少しずつ家が増えていき、道も立派になってきた。

「この辺りが街かな。」

「あそこ人が並んでいるね。何だろ?」

小太郎さんの指差す方を見ると、10人ぐらい人が並んでいた。

「これは何の列ですか?」

ガンちゃんが並んでいる最後尾の人に聞いた。

「首都に行くための列ですよ。」

周りに線路や車などの移動手段は無い。見ていると、一番前の人が少し歩いた所で消えた。

「これは、ゲートですね。あそこに説明が載っています。」

ガンちゃんが言った。見ると、テレポートとタイトルがあり、その使い方が載っていた。①料金を係員に渡す。②目印の所まで歩く。③首都に行きたいと願う。これで瞬間移動できます、と。

「なるほど。でも、僕たちここのお金持ってないですね。」

「そうだな、今は使えないかな。でもゲートがあるっていうことは十分な収穫だね。ここの管理をしている人なら何か知っているかも。」

係員に聞いてみると、

「私は下っ端だからね、分からない。でも首都に行けば、管理会社がある。この国で一番大きくて有名な会社だ。首都に行くかい?」

と返事が来た。

「はい、首都に行きたいですが、お金を持って無くて。」

「なんだい、金無いなら、無理だよ。帰った帰った。」

と、追い払われてしまった。

「歩いて首都に行くと、1日かかりますよ。これだと一瞬ですから、大抵は金払って使っちゃいますね。」

と最後尾の人が教えてくれた。

「歩く場合、どちらの道を行けば良いですか?」

「ああ、地図書いてあげますよ。今も瞬間移動が怖くて使わない人は居ますから、道はそれなりに舗装されているはずですよ。」

地図を頼りに僕たちは歩いた。

街からだいぶ離れたが、道は大きく分かりやすかった。

「お腹空いて来ましたよね?ご飯どうしましょうか?」

僕は二人に話しかけた。

「私はロボットですから、無くて大丈夫です。」

とガンちゃん。

「私も少食に慣れちゃったから、無くてもいいよ。所々にレストランあるけど、シャッター閉まっている所多いし、お金も無いし。」

と小太郎さん。

「では、行ける所まで歩きましょう。」

そう言って僕たちは休まずに道を進んだ。

夕方になってきた。

「時間経つのが早いですね。」

「ずっと歩いているだけだから、そう感じちゃうのかもな。」

「計算するとここの1日は、私の居た星の半分ぐらいです。」

「ガンちゃんがそう言うなら、実際早く時間経つ星ということですね。早めに寝床探しましょう。」

「道端で寝ちゃあ駄目かな?」

「車とかの危険はなさそうですよね、この星は。」

そうこう話しているうちに暗くなってきた。

「街灯ないし、いくら大通りと言っても暗いと道を間違えるかも。」

「そうですね、この辺で寝ましょう。」

そう言って、僕たちは道端で横になった。

しばらく寝ていたが、

「さむっ。」

という小太郎さんの声に起こされた。

「私の計算によると、真夜中は-10℃になります。」

「えー、そんな下がるの?凍え死んじゃうよ。」

「温かい格好をするか、建物の中に入るかになりますね。」

寝起きで頭が回らない中、選択肢を提案した。

「この暗さじゃ、どちらも難しい…あれって建物じゃない?」

遠くに明かりが見える。そこまで移動し、呼び鈴を鳴らした。

「どうしましたか?」

女性の声がした。

「外が寒くて、ガレージでも良いので、一晩泊めて下さりませんか?」

「夜にこんな道を歩いているのは、どうしてですか?」

「お金が無くて、歩いて首都を目指していたら、暗く、寒くなっちゃっいまして。」

「3人で旅行されていらっしゃるのですか?」

3人と分かるのは、どこからか僕たちのことを見ているのだろう。

「はい、色々あって、3人で旅しています。」

「あの、防寒具だけでも貸して頂けないでしょうか?」

しばらくすると、ドアが開き、

「どうぞお入り下さい。」

と老夫婦が迎えてくれた。

僕たちは、助かったと安堵して建物に入った。

「儂らは年寄り二人じゃから、初めはこんな時間に怪しげで断ろうと思っとったけど、本当に辛そうで正直そうじゃから、泊めようと思ったんじゃ。」

「ありがとうございます。」

「この辺りも昔は栄えていたのよ。夜でも明るくて、私達も民宿やって。だから泊まる部屋はあるわ。」

と案内しながら、老夫婦が会話を始めた。

「それが、あのテレポートで人通りが少なくなったんじゃ。」

「さらに、今の大統領が馬車に重税をかけてからは、この道路を使う人がめっきり減ってしまってね。」

「今の大統領は駄目じゃ。長年大統領だったのに、公約を全然せず、公約に無かった税金をどんどん増やしよる。次の選挙は絶対に入れん。」

「もう一人の候補者の方が若くて格好良いわね。はい、この部屋、使っていいわよ。」

ちょうどベッドが3つ並んだ部屋に案内された。白い壁で質素な造りだ。

「ありがとうございます。」

「君たち、食事はしたのかね?」

「いや、まだです。」

「じゃあ、食べていくと良い。」

「あら、お父さん。作るのは私ですけどね。まあ、部屋で少々お待ち下さい。」

「君たちは、首都に行って何をしたいんじゃ?」

お爺さんだけ残って僕たちに聞いてきた。

「テレポートの管理会社に聞きたいことがありまして。」

「ああ、あれは不思議な装置じゃな。魔法のようじゃ。わしの息子もあそこの会社で働いておる。ただ、テレポートの仕組みは社員でも教えて貰えないそうじゃ。」

「会社の場所は分かりますか?」

「そうじゃ、地図をあげよう。」

そう言って、お爺さんも部屋の外へ行った。

お婆さんが来て、

「さあ、出来たから、食堂にいらっしゃい。」

と呼びかけた。ついていくと、4人がけの机が4つ置いてある食堂で、そのうちの一つの机に3人分食事が並べられていた。

「急だったので、卵かけご飯とお味噌汁しか無いけど、ここの卵は生でも食べられて、栄養満点なのよ。」

「頂きます。」

ずっと空腹だった僕たちは、ご飯を掻き込んだ。

「あれ、あなた全然食べないね。」

お婆さんがガンちゃんの方を見て言った。

「あ、彼はロボットなので、食べないのです。」

僕は答えたが、

「ロボット?何ですか、それは?」

「機械で出来ている、ということです。」

「機械?」

と全然話が伝わらなかった。

「あー、彼少食なので、私が食べちゃいますね。」

と小太郎さんが間に入り、なんとか丸く収めた。

翌朝、老夫婦に感謝を伝え、首都へ向かった。

首都に近づくにつれ徐々に道は舗装が綺麗になり、建物、人通りが多くなっていった。




「地図によると、この辺りかな。」

「あそこですね。」

ガンちゃんが指差す方を見ると、テレポート管理会社と書いてあった。

「結構立派な建物だな。」

大通りに面した、レンガ造りで大きな建物。さすが一番の会社だ。

建物に入り、受付に声をかけた。

「テレポートの事について聞きたいのですが?」

「はい、何でしょうか?」

「テレポートで他の星に行ったり出来るでしょうか?」

「他の星って夜空に浮かんでいる?」

「はい、その星です。」

「ははは、それは無理でしょ。」

「では、ゲートって知らないですか?」

「知らないですね。」

「星と星を移動できるものがゲートで、このテレポートに似ているのですが。」

「知らないですね。あの、御冗談はもう止めて、お引き取り下さい。しつこいと警備員呼びますよ。」

しょうがなく、僕たちは帰ろうとした。

「ちょっと、そこの御三方お待ちを。」

声がする方を見ると、高そうなスーツを来た男性が笑顔でこちらに向かってきた。

「いやいや、私はこの国の大統領。困っていらっしゃるようなので、私が直接話しを聞いてあげよう。」

「ありがとうございます。」

「立ち話も何だから、奥の部屋へどうぞ。」

そう言って大統領が建物の2階へ上がり、奥へ向かう。僕たちもその後に従った。

「大統領もこの会社の関係者なのですか?」

「元々は違うけど、ここは一等地だから使い勝手が良くてね。さあ、どうぞ。」

案内された部屋は、扉から絨毯、ソファ、全て豪華な造りだった。

ソファに僕たちが座ると、

「さっき通りがかった時に、ゲートって聞こえたのだが?」

と聞かれた。

「そうです。僕たちそれを通ってこの世界に来ました。」

「この世界のどこに出たのかな?」

「えっと、川の中に出たから…。」

僕はお爺さんに貰った地図を見せて、この辺りと教えた。

「ほう。ありがとう。」

「ゲートをご存知ですか?」

「ああ、知っている。後で詳しく話そう。ちょっと業務があるから、とりあえず、待っていてくれ。」




出されたお茶を飲み、窓から部屋の外を覗き、人々が行き交う景色を眺めた。

「さすが大統領の部屋ですね。ソファもふかふかで、高価そうで、僕には居心地が悪い。」

「でも、無防備じゃない?大統領なのに、SPや秘書も連れず、一人で話しかけてくるなんて。」

「確かに。泊めてくださった老夫婦の話では、恨まれる可能性もありますよね。」

「う~ん、直接話した感じだと悪そうじゃ無かったけど…。」

そんな話をしつつ、1時間ぐらい経っただろうか、ドアが開き、大統領が入ってきた。

「お待たせしたね。ゲートについて、この世界に来てから、話した人は居るかい?」

そう言いながら、ソファに座った。

「何人かの人にゲートを聞きましたが、みんな知らなかったです。」

「詳しく話した人は居るかい?」

「いや、詳しくは話してないです。なぜ、そんなに聞くのですか?」

大統領は少し考えてから、答えた。

「テレポートとごっちゃになって混乱する人もいるかな、と。」

「テレポートとゲートって何が違うのですか?」

「次から次へ質問するね。私も詳しくは知らないが、ゲートの場所は知っている。ついてきなさい。」

大統領はすぐに立ち上がり、廊下へ出た。僕たちも後を追った。

「ゲートはこの建物の地下にあるよ。」

そう言いながら、階段を降りた。

「キーは何ですか?」

僕たちも階段を降りながら聞いた。

「キー?」

大統領は一瞬足を止め、振り返った。でもまたすぐに、階段を降りだして、

「いや、知らないな。」

と言った。

「それが分からないと、次の世界に行けないのですが?」

「私も詳しくは知らない。ただ、ゲートは地下だから連れて行くように、その前に詳しく話した人を特定するように指示されただけで。」

と小声で吐き捨てるように言った。どういうことだ?と思っていると、

「誰に指示されたのですか?」

とガンちゃんが大統領に小声で聞いた。

「私より偉い人。言えない。」

顔面が蒼白になり、さっきよりもさらに小声で答えた。

「怪しくないか?」

小太郎さんが歩みを止めて、言った。僕たちも足を止めた。

「でも、どうすれば良い?」

「大統領だったら、トップじゃないのかよ。」

小太郎さんが大統領に詰め寄った。

「表向きだけだ。全て裏で操作されている。君たちをゲートに連れて行かないと、私は殺される。君たちが教えてくれたゲートの出口の土地一帯はすぐに買い取られた。ここでゲートを知っているものは他の世界から来た者。おそらく侵入者として排除される。」

「罠じゃん。」

「ああ、申し訳ない。逃げてくれ。」

大統領は項垂れて言った。初めの立派な雰囲気と全然違った。

「逃げるってどこにだよ。」

小太郎さんの言葉に大統領が顔を持ち上げる。

「この世界に逃げ場はない。必ず排除される。」

「じゃあ、無理じゃん。」

「一か八か、ゲートに行きましょう。」

「本当のゲートかどうかも分からない。さっきの部屋のソファの下に非常用の金と拳銃を隠してある。それを持ってできるだけ逃げなさい。」

「ゲートの場所を教えて下さい。逃げ場がないなら、行くしかないです。」

「あの、拳銃だけ取ってこない?」

小太郎さんがそう言った時、バンと音がして、大統領が倒れた。

「困るよね。ちゃんと操られていないと。」

階段の上から、大統領よりも遥かに若い20代の男性が発砲した銃をこちらに向けていた。

「大丈夫ですか?」

ガンちゃんが撃たれた大統領を揺さぶりながら、声かけたが、返事は無かった。

「自分たちの心配をすべきなんじゃないの?言うこと聞かないと、撃つよ。」

「あなたは何者ですか?」

「答える必要もない。地下に進まないと撃つぞ。」

「的確に撃ち抜いています。かなりの熟練者でしょう。」

「ああ、デスゲームで死ぬほど撃ったからな。」

「デスゲームって、あのロボットの世界の?」

「ああ、お前も知っているのか。最高のゲームだよな。あんなに撃てて。何十年もハマったよ。お陰で銃の扱いには慣れている。」

話からすると、ロボットの世界の元住人。ゲートも知っている。おそらく、こいつが裏で大統領を操っていたのだろう。

「僕たちもあの世界を通ってきました。」

「だから目障りなんだよ。早く地下へ歩け。」

言うことを聞くしか無かった。

「よし、そこの部屋に全員入れ。もっと奥だ。」

僕たちが薄暗い部屋に入り、中へ進むと、ガチャンと音がした。入口に鉄格子があり、閉められてしまった。

「何回目の牢屋だよ。」

僕は思わずつぶやいた。

「そんなに牢屋入ったの?」

「まあね。でも脱獄できたのは、周りのおかげ。」

「じゃあ、難しいか…」

「奥に生命反応があります。」

ガンちゃんが言った。目が暗さに慣れてくると、髪やヒゲを伸ばした男性が奥の壁に座り込んでいるのを見つけた。

「おう、オリジナル。そんな奥にいちゃあ、負け犬の顔が全然見えないじゃないか。もっとこっちに来て、靴舐めろよ。」

奥の男性は動かない。

「まあ、いいさ。今日は、あいつの処分をしなきゃならないから。大統領、増税で恨まれ暗殺。まあ、これだな、見出しは。手間が増えたけど、元々新しい奴に変える予定だったし、結果オーライかな。お前たちもゲートの確認が取れ次第、処分、ははは。」

と笑って、帰って行った。その後、複数の部下が大統領を運び、血の跡を消して去っていった。



「オリジナルって呼ばれていましたね。あなたは、なぜ牢屋に入っているのですか?」

僕は奥の男性に聞いた。

「身から出た錆じゃ、話したくもない。」

男性が答えた。

「あなたは、ライフさんですね。」

ガンちゃんが奥の男性に声をかけた。

「そうじゃが、何か?」

「執事ロボットです。あの時は、再起動ボタンを押して下さり、ありがとうございました。」

「ああ、そんなこともあったな。今じゃあ、こんな感じだが。」

「あなたと先程の男性、遺伝子的には100%合致していました。コピーですか?」

「…そうか、あのロボットか。なら話そう。」




わしは、フリック3世の元でゲートを作った開発者じゃった。

開発後、ゲートを宇宙のあちこちに置けば、フリックから更に莫大なお金が貰える話じゃった。宇宙旅行も兼ねて、わしはそれに参加したんじゃ。

しかし、この世界に来た時、持っていた金が全く使えず、何も食べられなかった。お金を稼ぐため、このゲートを使ったんじゃ。開発者じゃから、調節して都市間の移動なんて簡単なもの。それまで1日かかった移動も一瞬。瞬く間に金持ちになった。お金を持つと失うのが怖い。そう、他の奴がゲートを作っては困る。なので、仕組みはわししか知らないようにし、ゲート出口の土地を買い取って、建物を造り、他の世界から来た奴はそこに閉じ込めた。そして、ゲートではなくテレポートと呼ぶことにした。ゲートと言う奴は、他の世界から来たという事。ライバルになりそうな芽は出来るだけ早く摘むように、情報が集まるようにした。そして、このゲートの設定をいじれば、自分のコピーも簡単に出来る。その機能を皆が使えるようになると、元の星と同じく問題になる。だから、わししか使えないようにした。わしだけ永久に歳をとらず、仕事はコピーに任せていった。よりお金を稼ぐため、そして情報を集めるため、政治を動かすようになった。ただ、わしが表舞台に立つと、歳をとらないことがばれるし、恨まれる可能性もある。政治家を裏金、脅し、説得、あらゆる手を使って、裏から操るようにした。わしからすれば、政治家は役者。脚本を書き、監督、プロデュースしているのはわし。そうして、わしの、わしによる、わしのための政治が完成したんじゃ。

時は経ち、ゲートを通って来た奴らから、故郷の星の状況を聞いた時に、そういえば、フリックからまだお金を貰ってない、と思い出し、ここの仕事はコピーに完全に任せ、宇宙旅行を再開した。その道中、君を再起動した。なにか情報を聞けると思ってね。なんとかフリックに会い、所有する土地、建物を頂く手形を貰い、この星へ戻ってきた。しかし、そこは出口のない建物じゃった。そう、ゲートを通ってきた奴らを閉じ込めるために、わしが造った建物だ。ここで息絶えるのか、そう思ったが、しばらく後にここへ連れ出された。コピーがわしを侮辱し、優越感に浸るために生かされる、そんな生活になった。




「人にやったことが自分に返ってきたのですね。」

とガンちゃん。そして、小太郎さんは

「最低だな。」

とつぶやいた。

「ああ、その通りだ。わしは相手の立場に立って考えず、お金儲けに走ってしまった。ここに来てから、何度後悔したか。もし、わしがコピーだったら、どうするか、それを前もって考えていれば、こうはならなかった。」

その時、ドサッと音がした。天井が崩れ、先程のコピーが椅子に座った状態で落ちてきたのだ。

「イタタタ。座った途端、何だ?」

「この日をどれだけ待ち望んでいたか。」

ライフさんがボロボロのフォークをコピーの喉元に構えている。

「何をしやがった?」

「わしがお前なら、日中この上の階に居て、わしよりもお前の方が上だと、優越感に浸るだろう。だから、誰も居ない夜中、少しずつ天井をこのフォークで削った。ついに落ちてきたな、ようこそわが牢獄へ。」

「そんな武器で偉そうに。」

「こんな武器でもお前を殺すことなんてわけないさ。」

「ああ、そうかも知れないが…」

「ほう、お探しの物は、この拳銃かい?それともこの牢屋の鍵かい?お前が隠す場所は分かっている。何度も、何度もお前の立場に立って考えたから。簡単じゃったよ。遺伝的には同じだからな。」

「俺の立場?変わったな。昔は考えもしなかったくせに。でもな、俺の更にコピーがまだいる。」

「そんな事、百も承知じゃ。」

「俺を殺したら、俺のコピーが黙っていない。手を組まないか?」

「戯言を。騙されぬわ。あと、もう一つわしが知っていて、お前が知らないことがある。」

「なんだ?」

「さっき捕まえた3人の中に、ロボットがおる。」

コピーが僕たちの方を見た。

「そんな馬鹿な。ロボットはゲートを通れない。」

「時代は変わったんじゃ。遅かれ早かれお前は終わりじゃ。この殺しは、過去の自分との決別じゃ、許してくれ。」

そう言って、ライフさんは右手に握りしめたフォークを進め、自身のコピーを倒した。

「わし自身の恥ずかしい姿を見せてしまったな。」

ライフさんは、遠巻きに見ていた僕たちの方を一瞥し、鍵を持って、入口に向かった。

「拳銃は?」

「もうわしには必要ない。」

そう言って、牢屋の鍵を開けた。

「そう言えば、君たちはゲートを通りたかったのじゃな?」

「はい。どこにありますか?」

「新しいのを用意する、付いてきなさい。」

そう言うと、階段を登り、1階の部屋に入った。床が一部抜けている…コピーが使っていた部屋だろう。

「コピーのコピーは仕事中でここには居ないな。コピーはゲートの技術を独り占めするため、新しく作ったゲートもここの金庫に隠してあるはず。ええと、番号は誕生日。」

そう言いながら、金庫を開け、中からシートを取り出した。

「これがゲートじゃ。固定するため、普段は土や床に埋めてあるが。行き先はどこが良い?」

そう言ってシートを広げた。

「選べるのですか?」

「ああ、設定するよ。開発者じゃから。」

「地球に行けますか?」

「……あ、すまんのう。地球は遠すぎるようじゃ。」

「前に戦国時代の星に行ったことがあって、そこから地球へのゲートなら僕は知っているのですが…。」

「ああ、そんな星あったな。そこなら設定できる。」

「キーは何になりますか?」

「君たちが初めて使うわけだし、君たちが決めれば良い。」

「え、そういうものなのですか…何にしよう?」

僕はガンちゃんや小太郎さんの顔を見た。

「こう言っちゃあ悪いけど、もし何かあって逃げざるを得ない時、ライフさんは通れて、コピーは通れないものが良いと思うんだ。」

小太郎さんが言った。

「そうか、じゃあ、相手の立場に立って考えること…思いやりかな。」

「気を使ってくれてありがとう。」

「ライフさんはこの後どうするのですか?」

「わしはこの世界で懺悔の日々じゃな。これまでやった過ちを正していくよ。」

髪やヒゲが伸び放題で汚らしいが、ライフさんのすっきりした表情を見て、僕たちは次の世界へ向かった。




―――To the next world  自分主義社会 完





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