7th world ~少人数国家~
また逃げてしまった。
でもしょうがない。本当に鬼が居たから。刃物を振り回していたから。山田君はどうするかな。彼なら本当に退治してくれるかも。
「おや。」
黒のスーツを着たおじさん、執事ロボットが声をかけてきた。
「また…来ちゃいました。」
「ああ、やはりキング様ですね。」
「様なんて恥ずかしい。」
そう、ここは始めに来たロボットの世界。屋上に僕は居た。
「実は、あの後、人も増えています。会いに行きましょう。」
執事ロボットが笑顔で言い、僕たちはエレベーターに乗った。フリック3世の肖像画が飾られたダイニングに行くと、マリナさんとアルファさん、そしてその他10人が集まっていた。
「この方が私達の恩人の一人、キングさんです。」
マリナさんが皆に僕を紹介した。皆拍手をした。僕は照れながら、
「恩人って言っても、僕は何も…。もう一人の山田君が頑張っただけで。」
と言った。
「いえいえ、二人居たからこそですよ。協力してマリナさんを見つけ、そこから皆さんが助け出されました。」
執事ロボットはそう言ってくれた。
「もうこんなに人が集まっているなんて凄いですね。」
「はい、早く見つけないと保育器が壊れて、亡くなってしまう危険性があるので、頑張っています。」
とマリナさんが答えた。
「一周されたのですか?」
執事ロボットが聞いてきた。
「うん、フリックさんにも会い、執事さんの事も話しました。ガンちゃんって呼んでいましたね。でも、もう…」
会った世界がもうすぐ無くなる星でフリックさんは亡くなっている可能性が高いことを話した。
「そうですか。でもあくまで可能性ですよね。私は諦めませんよ。そう習いましたから。実は、発見した人の中に技術者が居て、誰かと一緒になら私もゲートを通れるようにして頂きました。」
と執事ロボットが言う。
「それは良かったですね。」
「キング様は、また地球に戻られるのですか?」
「うん。ただ鬼が居て、逃げちゃいました。経路が変われば、出口も変わるだろうから、また地球へ戻ろうと思っています。」
「キング様。私を連れてゲートを通ってくれませんか?」
二人なら、もしまた鬼が現れたとしても、退治できるかもしれない。
「良いですが、途中の星が無くなっているので、その先どう通れば良いのか知りませんよ?」
「ええ、大丈夫です。御主人様が生きているのか、どこに居るのか分からない。でも、非効率的であっても、私は探します。」
「ガンさん、これまでありがとう。あなたのおかげで、私達は生きています。これからはあなたの生きたいように生きる番だと思います。」
マリナさんが執事ロボットに向けて言った。
「いえいえ、これまでも私の生きたいように生きてきましたよ。といってもプログラム上でしたが。」
と言って執事ロボットは笑顔を見せた。
「今晩は盛大に送迎会をしましょう。」
久々のご馳走を楽しんだ。スライムのベッドに寝て、翌朝、執事ロボットと共にゲートに向かった。
「手を繋いで頂ければ、一緒に通れるはずです。あ、あと今後、私の事はガンちゃんと呼んで下さい。」
そう言って、執事ロボットが握手を求めた。
「ごめんなさい。僕はまだあなたのことをそうは呼べないです。」
実験動物のように感じたあの日を僕は思い出した。
「そうですか。その呼び方ができるのは御主人様相当なのですが、仕方ないです。ガンさんではどうですか?」
「うん、じゃあ、ガンさんで。」
握手をしながら、僕は思う。
僕は地球に帰る。そう希望を持って。
―――To the next world 少人数国家 完