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白の魔法使い  作者: 宮ヰ
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灰の始まり

自分は何ができるのか。俺はずっとそれを考えていた。


愛情をくれる親。仲の良い友人達。仲の良い村の人達。平和で豊かな環境。


どれもこれも大切な物で、手放したくない物だ。


しかし、これはいつまでも続くものではなく。ほとんどはいつかは無くなるものだ。それ故、自分は大切な人たちに何が返せるのか、半ば義務感の様に考えていた。

父は「そんなことは気にするな」、母は「あなたが元気でいてくれればそれでいいのよ」と言い、友人達からは「お前は考えすぎる癖がある。そんなこと気にするな」と言われた。


それでも俺は何が返せるかずっと考えていたが、その考える日々も長くは続かなかった。


13才になり、狩りへ参加することが許された俺は、仲の良い友人と6人で狩りに出かけることが多かった。そしてある夏の日。夕方ごろになって帰ろうとした所、村の方から煙が上がっていた。

急いで村まで戻った俺達の目に映ったものは、盗賊に襲われ、廃墟に成り果てた村の姿だった。


家は焼かれ、畑は荒らされ、家畜は奪われ、人は皆晒し首。


父も母も、仲の良かった鍛冶屋のおじさんも、農家のおばさんも、協会の神父様も。皆死んだ。そして死体を晒され存在の全てを凌辱されていた。


俺達は怒りのまま盗賊の後を追い、寝込みを襲った。

苦しませられるよう、皆で協力してできる限り生け捕りにし、足の腱を斬った後に俺が唯一使える火属性の魔法で生きたまま焼いた。盗賊は皆、謝罪、懺悔、悲鳴、他責、怨み、色々な言葉を吐いていたが結局血を吐き身体を炭に変えて死んでいった。全部で24人。盗賊もまた、人だった。


復讐を果たした俺達は、沈んだ気持ちのままそこで一晩を過ごした。廃墟になった村へ帰ろうとは思えなかったからだ。


翌朝話し合った結果、皆を弔う為に俺達は村に戻った。そこで俺達を迎えたのは謎の騎士達だった。


話を聞いてみれば、彼らは王都の教会騎士団の構成員で、盗賊の討伐の為に村を訪れたらしい。


彼らは遅かった。俺達の村は救われなかったし、盗賊は俺達が殺した。

友人達は彼らを責めた。申し訳なさそうな顔をしていたが、別に彼らが悪い訳ではない。早く来ていたら助かったかもしれないが、それはもしもの話で、この場で彼らを責めるのはお門違いでしかない。

だが、人の感情がそう簡単に抑えられる訳でもない。皆もわかっているが抑えられないのだ。もし彼らが一晩早く着いていたら。そう考えないと感情の行き場がないのだ。


俺もこの気持ちをどうしたら良いかわからず。騎士達の長に質問をした。「俺達に救いを与える筈の神は何をしているのか。神は本当に存在するのか」と。長は「神は居るが、万能ではない。それ故、悲劇が起こる。我らはその悲劇が少しでも減るようにこうして活動している」と答えた。


今回は神の手からも、教会の手からも零れ落ちた俺達が悲劇に会った。文字にするならばただそれだけの事。ただ、俺にはどうにも納得ができなかった。このままでは死んだ彼らの命がただ失われただけになる。だから俺は質問をした。

「取り零される命が少しでも減るように、俺も人を救いたい。救うためにはどうすれば良いのか」と。

長は「ならば付いて来るといい。人を救うための術を教えてやろう」と答えた。


村の皆を弔った後、友人達は近くの村へ移り住むと決めたが、俺は騎士達に付いて行く事にした。

俺ができること。それは少しでも人を救うことだと思ったからだ。

俺に魔法の才能があることも、この出会いもきっと何かの意味がある筈で、それを確かめる為にも俺には進んで行かなければならない。


そうでもしないと、俺はどうにかなってしまいそうだった。俺は意味を定めることでそこに救いを求めたのだ。


王都に着いてからは速かった。俺は教会で拾われた孤児兼騎士見習いとして雑用から始まり、祈りを捧げたり、魔法の勉強と体力作りの訓練を繰り返す日々を送った。


日々は忙しく、訓練に打ち込んでいる間は村の事を忘れられた。忘れたかった訳では無いけれど、ふとした時に皆の死んだ姿がフラッシュバックするので距離を置きたかった。自分の無力さ、守れなかった人達の姿、焼き殺した盗賊の苦痛に歪んだ表情を思い出すたびに動悸が止まらなくなってしまう。

それ故、限界まで精神と肉体を追い込むことで記憶から逃げていた。

最初の頃は教会の人から怒られていたが、時間が経つにつれて皆何も言わなくなっていった。


そんな生活が2年程続き、記憶への耐性は付いたものの、趣味がない自分にとって趣味の代わりになるのが訓練だった為、毎日倒れるまで訓練や魔法の勉強をすることが日常化していた。

そして雪の降る12月のある日、騎士の長、というか本当に騎士団の長である団長だった男、サルヴェ・ヘブンリーが久しぶりに教会へ顔を出した。

サルヴェ曰く俺は1月から魔法学校なる場所に行かなければならないらしい。正直意味が見出せないと答えたが、独学よりも効率の良く魔法が学べることに加え、人脈を作ることで将来の為になると言われたので大人しく行く事にした。


そして今後は魔法学校の寮で寝泊まりすることになるから必要なものは持っていくようにと言われ、制服だの教科書だのを渡してサルヴェは去っていった。

渡された物の中には学校の生徒であることを示す学生証もあり、そこには『グレイ・ヘブンリー』と書かれていた。

俺は勝手にサルヴェの子供にされていた。意味が分からなかった。

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