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最後の日


「うわ~、一人でここ登るのほぼ不審者やん」

とぼそっと言う。独り言を言いながら平日の昼間に人気のないところに向かうのだから、ちゃんと不審者である。

人気がないこともあってか、整備や清掃がされている様子はなく、落ち葉だらけのボロボロの石段が数十段も続いている。サッカーをもうしていないからか数段で息が切れる。

自転車と階段でたまった疲労をこらえて最後の一段を登った。


「だめだ…適度な運動してないとこんなんになっちゃうのか…」

もともと体力はなかったが、素の体力がここまでとは思わなかった。

ぜぇぜぇと切れた呼吸を膝に手をついて整える。

ふう、とある程度息が整うと12月なのに汗が出ていることに気づいた。顎についた汗をぬぐいながら顔を上げると開けた懐かしい空間があった。

コンビニくらいの落ち葉だらけの空間。秋になって木からはが落ちると町が覗ける地元住民の一部しか知らないスポット。中学時代なぜか僕にだけ優しくしてくれたヤンキーがたまにくるところだったようで、田舎ってこういうスポット見つける子たまにいるよなと少し引いたのを覚えている。


「なつかしいな~、あんなとこにスーパーできたんだ。」

大学になって変わった街並みを見て少し楽しくなった。一通り町を見て奥へと進む。

台座のような岩と小さな祠がある。ここで座って柚葉と談笑して時間を過ごした。

そして地元を出ると伝えた場所でもあった。岩に腰かけると記憶がよみがえってくる。




「ねえ優馬は結局進路、どうするの?」

階段で息が切れて首に巻いたマフラーを解きながら柚葉が言う。

ついに来たかこの話題がと思った。岩にカバンを置いて柚葉を見る。


「僕はね、東京の大学に行こうと思ってる。そろそろ地元から、実家から飛び出して生きてみたい」

まっすぐと目をそらさないように柚葉の目を見て言った。地元から、実家から出たいなら県内に進学して一人暮らしをすればいいと思うかもしれない。でもうちの父親はそこらへんに厳しくて県内なら実家から通え。じゃないと仕送りは一切出さないという鬼だった。高校がバイト禁止だったのにそんなのムリゲーじゃんと。


「そっか…じゃあ遠距離になっちゃうね…」

少しうつむきながら柚葉悲しそうにした。柚葉は大人しくて、あんまり自分の気持ちを表に出すのが苦手だった。だから僕はもしかしたら聞きたかったのかもしれない。柚葉の気持ちを、柚葉の口から。

でもそのための方法がダメだった。今ならわかる。


「柚葉の時間を僕のわがままに付き合わせて浪費させちゃだめだなって…」

この時の僕は本当にこう思っていた。1年の半分も会えないような彼氏よりもっと柚葉のことを本気で思ってくれる人を選んだほうがいいんじゃないかと。好きだけど別れるべきなんじゃないかと。

でも心のどこかで、柚葉が僕がいいと、そう言ってほしいと思っていたのかもしれない。


「そっか…優馬は自由に生きたいんだもんね。わかった。」

悲しそうで寂しそうで、それでも僕の意思を尊重しようとつくった笑顔でこちらを見た。

違うんだ。柚葉。僕が欲しかったのはね、

その日から柚葉と帰ることはなくなった。


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