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空元気で走る車

 

 新幹線で地元に帰りながら僕はただ外窓をながめていた。

思い返せば、柚葉は春休みなどに帰省しても幼馴染の集まりには顔を出さなかったし、僕を見送ってくれたあの日以来、彼女がどんな生活を送っていたのか知る由もなかった。

新幹線から降りて改札を抜けると、飛鳥と同じサッカー部だった蒼士が待っていた。


「久しぶり、春以来か優馬」

蒼士も飛鳥や柚葉と同じように高校卒業まで地元で過ごしてきた幼馴染だった。飛鳥と蒼士は家が近く、僕と柚葉を含めた四人で遊んでいた。


「うん…二人とも元気、ではないか」

久しぶりの再会だというのに全員が暗い顔をしていた。蒼士は笑っていたが作り笑いだとすぐわかった。

行こうか。といって車に乗り込む。晴天なのに暗い雰囲気が車中を覆って霧の中にいるようだった。


「蒼士も優馬もいるなんて、なかなかないじゃん!腐れ縁同窓会みたいだね!」

暗い霧を飛鳥が振り払って話し出す。飛鳥はいつも明るくて周りがよく見えている。飛鳥もこの重たい空気を感じたのだろう。


「そ、そうだな、蒼士も飛鳥も宮城大だよな?大学はどう?」

こんな時はまず話題を作るべきだと、大学の飲みサーの先輩が言っていた。


「まあ、そこそこ。就活もぼちぼち。」

しまった。話を広げるためのカードが就活しかなかったのに蒼士に読まれた。UNOで一枚しかないのにリバースされてる気分だ。会話デュエルは手札の多さが肝心なのに。何か探せと外を見ると高校生が下校中だった。


「なにがあったの?」

気づいたら口に出していた。これほど自分がTPOをわきまえられない人間だったとは。

しまった。と短時間でのデジャヴを感じた。

するとバックミラーで俺の顔をちらっと見て蒼士が話し出した。


「事故だよ。保育園での実習中、道路に飛び出した子供かばってね」

飛鳥は蒼士を一瞬見た気がしたが、そんなことはどうでもよかった

鳥肌がたった。同時にクラっとして続いて涙が出そうになったが手をきつくつねってこらえた。

柚葉はお母さんが保育士で昔から保育士になるのが夢だった。その夢がもう少しでかなうという道半ばで死んでしまった。いたたまれない気持ちが押し寄せてきて、あふれ出そうな涙をこらえて大きく息を吸い、震えた声で息を吐いた。


「ゆずにお線香あげるの明日にしよっか。優馬も疲れただろうし」

飛鳥は本当に周りが見えている。このままお線香をあげられるメンタルには到底ならなかった。

ああ、そうだな。と蒼士が答えた。三人の声はどこか寂しげで、車中はまだ霧の中だった。

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