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ただの<触角>

もっとも、俺よりも重いと言っても、こっちは足が二本、向こうが六本だからな、体重を上手く分散させりゃひょっとしたらもっと高い所まで来られるのかもしれねえが、残念ながらこいつはそこまで頭が回らねえようだ。


それでもここまでできるだけでもとんでもねえだろ。


だから容赦はしねえ。容赦なんざしててどうにかなるような相手じゃねえのは、分かるってもんだ。


上を位置取れたのと、弱点が確認できたことで、一気に有利になる。恐竜怪人ほどは頑丈じゃねえってのも助かったぜ。もちろん油断はしねえが、どうすればいいのか分からねえってのに比べりゃよっぽど気は楽だ。 


で、そいつの、<エドナそっくりの部分の頭>を狙って蹴りを繰り出す。まずはそこに脳があるってえ前提でな。


脳を潰しゃ普通は死ぬだろ。もしそこに脳がねえってんなら、そん時はそん時だ。


それでもこの<アラクネみてえな怪物>にとっちゃ、<エドナそっくりの部分>が頭だろうしよ。


そう考えて繰り出す俺の蹴りを、<エドナそっくりの部分の手>を使ってそいつは捌いた。でもな、さすがに格闘経験者でもなきゃ、『捌く』ってのは見た目ほど簡単じゃねえんだよ。


だから俺の蹴りを捌ききれずに、指の骨がペキッと折れる感触があった。なのにそいつはまったく気にしてる様子もねえ。興奮状態で痛みを感じてねえってのもあるのかもしれねえが、それでもまったくってのはどうよ?


実際、痛みなんざ感じてねえのかもな。


こいつにとっちゃ<エドナそっくりの部分の手足>はただの<触角>みてえだしな。


こいつが昆虫みてえなもんだったら、そもそも痛みを感じてねえってのも十分有り得る話か。


だが、丸ごと叩き潰しゃ関係ねえだろ。


まあ、骨が折れた痛みで正気に戻ってくれるかもしれねえと、髪の毛の先ほどは期待しないでもなかったんだけどよ、どうやらそれもダメみてえだな。


「ジャアッッ!!」


とか歯をむき出して吠えながら俺を威嚇してきやがる。正気に戻るどころか、それこそ獣の形相で。


だから俺も木の枝にぶら下がった状態で、さらに蹴りを繰り出す。踏ん張れねえから腰の入ったそれにゃならねえが、今度は腕の骨がへし折れる感触。十分な威力は出せてるな。


で、こいつの方はと言うと、手首の骨も完全に砕けたみてえでぶらぶらさせながらも俺の蹴りを捌こうとしてくる。


まったく大したしぶとさだぜ。


それでも、ここまでだ。強さそのものは恐竜怪人とも十分に張り合えただろうけどよ、相性が悪かったな。


上を取られちゃ、頑丈そうな本体の方の足を上に向けられねえその体の構造が仇になったか。



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