エドナそっくりの怪物
クモの体から女の体が生えた<アラクネ>とかいう怪物そのものの姿の、しかも透明なエドナと、形は完全に人間だってえのにやっぱり透明なジャックが現れたことでさすがの俺にもピンときちまったよ。
今の俺は、あの透明な得体の知れねえ怪物が基になってできたもんだってのがな。
けどよ、そんなのあどうでもいい。ここまでこの体で生きてきて何か問題があったかって言やあ何もなかったんだしよ。
それよりはこの<エドナそっくりの怪物>だ。こんな奴はここまで見たことがねえ。新種か、それとも俺がここまで見たことねえだけか。
なんてのも、今はどうでもいい話か。
エドナそっくりの怪物は、殺気しかねえ気配で俺に襲いかかってきやがった。
『久しぶりに会えて懐かしい』
とか、
『生きてるのが分かって嬉しい』
とか、そんなんじゃまったくねえ、絶対にねえ、あの恐竜怪人と同類のバケモンだ。
<スッポンポンのエドナ>
にも見えるそいつが空中に浮かんだまま突っ込んでくるような絵面だったけどよ、そうじゃねえな。でかいクモみてえな部分の方が本体だろうさ。
てこたあ、エドナみてえな部分は、<擬態>ってえ感じか。悪趣味にもほどがあんぞ。
股をおっぴろげたエドナがそのままの格好で俺に迫ってきてる光景とか、シュールすぎるわ。
エドナにしたってそんな自分の姿なんざ晒したくねえだろ。
とりあえずぶちのめしてやりゃ、エドナとしての記憶とか意識とかも戻るかねえ。
それがどうかは分からねえが、殺すつもりでかかってくるってんなら、俺の方もそのつもりで相手するしかねえな。
逃げようにも、完全にこいつの方が速え。逃げて逃げ切れるもんじゃねえ。それも分かる。
迎え撃つ体制を整えた俺に、そいつは蹴りを繰り出してきやがった。
やっぱこいつ、エドナじゃねえ! エドナはただのエンジニアだ。護身術くれえは身につけてたみたいだけどよ、この蹴りは完全に蟷姫のと変わらねえ鋭さで、普通の人間に出せるそれじゃねえ。
それでも、俺が相手じゃあ決め手にはならねえな。ならねえが、空中に浮かんだ状態で両足を連続で繰り出してくるってのは、さすがに油断ならねえ。
けど同時に、分かったぜ。このアラクネみてえな奴にとっちゃ、<エドナの手足>は<触角>なんだ。どんなにエドナそっくりでもこいつはエドナじゃねえ。エドナじゃねえなら、遠慮なくぶちのめせる。
だから俺は、真っ向から踏み込んで、一切手加減なしの崩拳をぶち込んでやることにした。
『すまねえな。エドナ』
とは、頭によぎったりもしたけどよ。




