たぶんそれから後の俺は
『自分らの手には負えねえ』と親に見限られて軍に入った時も、テロリストとの戦闘で訓練兵時代から仲の良かった仲間の頭が吹っ飛ばされるのを見ても、ここまでの気分になったことはなかった。
ああ、そうだ。親がもしテロリストに殺されたらと想像しても、そんなに胸がざわついたこともねえ。なのによ……
たぶんそれから後の俺は無茶苦茶したんだろう。けどな、キレて手加減をしなかったからやれたってわけじゃねえ。そんな漫画みてえなことあるわけねえだろ。それまでの積み重ねと、最高の手応えのあった崩拳が、やっぱりデカいダメージを与えてたんだよ。それがなきゃ、俺も行道も、蟷姫と一緒に仲良く恐竜怪人の腹ん中だっただろうさ。
気が付いた時にゃ俺は、動かなくなった恐竜怪人の上に馬乗りんなって、自分の指が何本も折れてるってのにも気付かねえで、口ん中に手え突っ込んでたよ。もしかしたら、食われた蟷姫の頭を引っ張り出そうとしてたのかもしれねえ。
そんなことしたって彼女が生き返るわけねえのにな……
「……あ、行道……?」
ようやく正気に戻って、俺は、行道の姿を探してた。そしたらあいつは、
「……」
頭がなくなった母親の死体を黙って見下ろしてたんだ。泣いたりはしねえ。ホントに黙って冷めた目で見下ろしてただけなんだよ。
けど、これまでずっと、蟷姫と行道のことを見てきた俺にゃあ分かるんだ。こいつらは、興味のねえものに対しては意識を向けることもしねえ。だからよ、行道にとっちゃそんな風にしねえでいられないことだったって話だよな。こいつらにはこいつらで、人間にゃ分からねえ情があるってことだよな。
「すまねえ……お前の母親を守ってやれなかった……」
詫びたところでどうにもならないのが分かってるけどよ。それでも詫びずにゃいられなかったんだよ。行道は返事もしてくれなかったけどな。
「く……!」
頭が冷めてくると、俺はようやく自分の指が折れてることに気が付いて、枝を拾ってそれを添え木にした上ででかい葉っぱで包んで葉脈を紐代わりにして縛り、ギブス代わりにした。綺麗にゃ治らねえかもしれねえが、こうしておいた方が痛みもマシになるしよ、やらねえよりゃいいだろ。
それから、蟷姫を埋めてやりてえと思ったけどよ。道具もねえ指も折れてて手もまともに使えねえ、なんてえ状態じゃ、どうすることもできなかった。麻沙美ん時は、小さかったってのもあったしな。
「行道、俺と一緒に来るか……?」
言葉が分かるとは思わねえがそう訊いてみると、行道は黙って俺についてきたんだ。




