少し浮かれていたのかもしれねえ
思いがけず行道の才能を目の当たりにすることになって、正直なところ俺は少し浮かれていたのかもしれねえ。
でもよお、子供がすげえ才能の片鱗を見せてるってなったらよ、親なら浮かれた気分になっちまうもんとは思わねえか?
なにしろ実際に押してたんだぜ? あのとんでもねえ恐竜怪人相手によ。
しかもそれが行道のおかげだってなったらよ。
けどな、そういう時にこそ落とし穴ってもんがあるってのもそうなんだろうなあ。
「げあっっ!!」
行道のすげえいい蹴りが恐竜怪人の喉にモロに入って、頭を下げた。絶好のチャンスだった。もう一度これ以上ねえくれえにいいところに恐竜怪人の頭が来た。これを逃すとかねえだろ。
俺の体は反射的に自動的に動いてよ、完璧な崩拳を頭に叩き込んでいた。前にヒョウ怪人に叩き込んだのと変わらねえ、最高の一撃を確かに食らわしたんだよ。
あん時と同じ手応えが間違いなくあった。
『いった!!』
そう直感したよ。だってえのに、そいつはギロリと俺を睨みやがったんだ。
『ああ、死んだな、これは』
と思ったぜ。恐竜怪人のでかい顎が俺の頭を生卵みてえに噛み砕くのが分かっちまった。
行道の蹴りがそいつの顎を捉える前に、ガブリといかれちまう。それはもう間違いなかった。
でかい牙がびっちりと並んだ真っ赤なのが迫ってくる。もちろん最後の瞬間まで諦めるつもりなんざねえよ。ねえけど、分かっちまうんだよ。
それでも自分の体を全力で動かして、命を掴もうとする。
『死んでねえ! 俺はまだ死んでねえ!!』
死ぬことが分かっちまってる俺と、生きてる間は絶対に諦めねえって俺が、同時にいる。妙な気分だ。
なのに、俺の目が実際に捉えていたのは、恐竜怪人の口の中の光景じゃなくて、別の何かをガッチリと咥えているそれだった。
一瞬、意味が分からねえで頭がフリーズしちまう。けど、すぐに察しちまった。
「蟷姫っっ!!」
ああそうだよ。俺の頭を捉えようとしていた恐竜怪人の顎が実際に捉えたのは、蟷姫の頭だったんだ。
俺に食らい付こうとしていた恐竜怪人の顎に頭突きを食らわせようとした蟷姫の。
「ゴッ! ゴリッ!! ボリンッ!!」
ってえ音と共に彼女の体がビクンビクンと痙攣して、それからボトリと地面に落ちた。壊れた人形みてえにな。頭のねえ。
瞬間、俺は、自分の体ん中が沸騰して爆発するみてえな感じがした。体中のどこもかしこもボコボコ音を立てて弾けてよ。
「うあ…ぁ、がああああああああああ~~~~っっ!!」
そっからは自分でもよく覚えてねえ……




