なんてえ威力だ
見た目にゃ精々三歳くらいにしか思えねえ行道の蹴りが、恐竜怪人の頭を跳ね上げる。
おいおい、なんてえ威力だ。これが本気のこいつの力か?
蟷姫相手にじゃれついてた時のは、さすがに本気じゃなかったか。
こんなヤベえ相手に行道を関わらせたくはねえけどよ。ここでこいつをヤらねえとどのみちおしまいだってえのはビンビン感じるしな。
なら、行道にも戦ってもらわなきゃならねえか!
だから、俺と蟷姫で恐竜怪人の気を引いて、行道には死角からの攻撃に徹してもらう。行道も本能的に自分の戦い方を察してんのか、小せえ体を活かして見事に死角に収まってんだよ。その上で、恐竜怪人の顎に狙いを定めて、蹴りや頭突きで攻撃する。
こっちは何も指示してねえのに、すげえじゃねえか。
『戦う』ってえことに特化した生き物なんだってのを感じる。
けどな、それはこの恐竜怪人も同じだろうよ。
でかい顎、頑丈な体、ナイフみてえな爪、重さをまったく感じさせねえ俊敏な身のこなし。
ここまで俺が見てきた猛獣の特徴全部を合わせたみてえなそいつは、たぶん、食欲の化け物でもあるんだろうな。何しろ、俺達とやり合ってる間も、逃げ遅れたトカゲみてえな獣とかを見付けたらそれを食うんだよ。
戦ってる最中にだぜ? 俺と蟷姫と行道を同時に相手にしてそんな余裕があるってのはどうなんだ? おかしいだろ。
俺達のことも、完全に食うつもりで襲い掛かってるのが分かる。こいつにとっちゃ俺達はただの<獲物>なんだよ。<敵>じゃねえ。敵として見てねえ。
こいつが元々ここにいる獣なのかどうかは分からねえ。とにかく初めて見る獣だ。もちろん、俺がこれまで見て回れた範囲なんざ半径十キロもいってるかどうか分かんねえ程度だから、その外にどんな獣がいるのかはまったく分からねえよ。
けどな、こんなのがいくつもいりゃ、もっと荒れてておかしくねえ気はするよな。この調子で獲物を食いまくってりゃ、こういうのが何十匹もいたんじゃこの辺の動物とかいなくなっちまわねえか?
しかもこの透明な体。だから俺と同じで元々はここにはいねえ獣だったのかもしれねえ。そういうのがこうやって透明な体をもって現れんのかもしれねえ。この世界じゃな。
なんて、今はそれどころじゃねえ!
一瞬でも気を抜いたら殺られる。誰か一人が殺られたらもう一瞬で次々食われちまうだろうな。
行道に顎を蹴り上げられた恐竜怪人に蟷姫が頭突きをかまし、その彼女を食おうとしたそいつの頭に俺が全力の蹴りを叩き込む。
とんでもねえ強さだけどよ。こいつも生き物にゃ違いねえ。ダメージを蓄積させていきゃ、いつかは崩れるだろ。




