意識から吹っ飛んじまうくれえのものでしか
ヒョウ怪人におそらくこれまでの人生の中で最高の一撃を食らわした実感も、正直なところ行道が無事に生まれてくれた事に比べると、意識から吹っ飛んじまうくれえのものでしかなかったなあ。
それくらい、行道が無事に生まれてくれたのが嬉しかったんだよ。麻沙美の件があったから余計にかもしれねえけどな。
だから今でも、麻沙美の墓には毎日手を合わせてる。いつかこんな死に方させたことに対して報いがあるかもしれねえが、報いがあること自体は別に構わねえが、取り敢えず行道が自分で生きていけるようになるまでは大目に見てやってくれねえか?
って、俺も人間な部分が抜けきらねえなあ。
つっても、神頼み運頼みで済ますつもりはねえけどな。今も基礎トレーニングは続けてる。頼れんのはやっぱ自分自身だけだしよ。
だが、蟷姫と行道も元々はそうだってことか。厳しい世界だぜ。大人になりゃそれほど怖くもねえだろうヴェロキラプトルみてえな獣も、子供のうちじゃあ普通にヤベえ相手だろうし、行道の前にそいつらが現れた時にゃ、
「ギィィッッ!!」
蟷姫が恐ろしい剣幕で飛び掛かっていって蹴散らしてたしな。俺が手を出す暇もねえ。ちったあ俺にも行道の前でいいカッコさせてもらえねえかな?
なんて俺の思ってることなんざ知る由もねえ二人は、そうやって他の獣とやり合ってる時以外だと、人間みてえにニコニコ笑顔で遊んでるわけじゃねえにしても、どことなく楽しそうにも見えたりもする。そんな二人を見てるだけで俺もホッとしちまうんだ。
母子ってだけでもう微笑ましいってことかもしれねえ。野生じゃあ男親が関わる方が少ねえみてえだしなあ。
ちっとばかり妬けるぜ。
なんで人間はこうなっちまったんだろうなあ? と思うけどよ。行道を見てたら分かる気もするわ。成長が遅えんだよ。生まれたらすぐに自分で母親の乳に吸い付ける。すぐに自分で歩けるようになる。すぐに自分で餌を取れるようになる。母親の負担が決定的に少ねえ。しかも<大きな子供>の世話なんざ見なくて済むしな。母親の負担が大きすぎんだろ。人間の場合は。そりゃ周りの助けがなきゃやってらんねえわ。
ましてや父親が大きな子供んなって足引っ張るとか、ねえわあ。だったら金だけ持って帰りゃいいだろ。ま、俺は大きな子供なんかにゃなるつもりもねえけどよ。
けどな、やっぱ野生ってのは、それだけじゃねえよな。子供がのんびり成長してらんねえのは。
早く自分で生きられるようにならなきゃいけねえんだよ。




