一ヶ月ほどしたら
行道は、一ヶ月ほどしたら、もう普通に歩いてた。いや、これは確実に人間よりずっと早えだろ。人間なら一歳くらいでやっとじゃなかったか?
ああでも、それこそ馬とかだったらその日のうちに立ち上がったりもするらしいし、そういうのを思ったらむしろ遅いくらいか?
母親にしっかりとしがみついて一体化してる分だけちゃんと守られてるからかもしれねえな。
まあそれはどうでもいいんだけどよ。小さくてもちゃんとカマキリ怪人してんのが感心させられるぜ。もうしっかり気配を消して獲物を待ち伏せて、虫や鳥を捕まえてやがる。ただまあ、まだ実際に食うわけじゃねえみてえだけどよ。猫が虫とかをいたぶるみてえにして狩りの練習をしてるってこったろうな。
俺がこうやって何も手を貸さなくてもちゃんと育ってるってのが、悔しいみてえな、寂しいみてえな、変な気持ちだぜ。
けどな、代わりに俺も縄張りを守るのは頑張ってるぜ。行道が生まれてからだけでも、二回、カマキリ怪人を追っ払ったしな。別に俺がそんなことしねえでもいけるのかもしれねえけどよ。でもよお、勝つ奴がいるってえことは負ける奴もいるってえことなんだぜ? それが蟷姫と行道だったら悲しいじゃねえか。
過保護とか関係ねえ。それに俺は、餌まで取ってやってるわけじゃねえし。
しかも蟷姫は、イノシシみてえな獣を相手に快勝して見せたしよ。ぜんぜん衰えちゃいねえ。
突っ込んできたイノシシみてえな獣に真っ向突っ込んで鼻っ柱に膝蹴りを食らわしてよ、ぐらついたところに頭突きを連発。頭を陥没させて仕留めやがった。
俺がやったでかいのと違って普通の大きさだったっても、いやいや、普通の大きさの奴もちょっと油断したらヤベえ相手だぜ? それを何もさせずに勝っちまうってえのは、マジすげえだろ。
おっと、それで、行道が無事に生まれたってんで普通に忘れてたけどよ、あの夜に俺の邪魔をしやがったのは、なんか、黄土色っぽい短い毛皮にヒョウみてえな模様が付いた、さしずめ<ヒョウ怪人>ってえ感じのだったわ。朝、日が昇ってから確認したら、ヴェロキラプトルみてえな獣とかに食い散らかされててもそれくらいは分かった。
だから今までで一番人間に近え奴だったけどよ。向こうも殺る気満々だったしな。そこはカンベンしろ。俺だっておとなしく殺されてやるわけにゃいかねえんだ。白ウサギのコスプレザルだったらそこまでする必要もなかったとしてもな。てか、あれあそもそも襲ってこねえ。
何度か俺がやり合ってるところを見てたみてえだし、俺のことはヤベえ獣だって思ってくれてんだろ。




