ガラじゃねえんだ
そうやってよ。俺は自分にできることで蟷姫と子供を守ったんだよな。それも自己満足の類かもしれねえが、まあいいじゃねえか。結果がすべてだ。
でよ、またいよいよ出産が迫ってきて、俺も臨戦態勢に入った。彼女が巣から顔を出して餌を取ってる間はまだ出産は始まらねえにしたってとにかく気構えだけは作っとかねえとな。
そして、彼女が巣から出てこなくなって三日、しかも餌を取りに顔を出すこともなくなってなくなったのはかなり日が傾いてからだった。できりゃもっと明るいうちになってほしかったぜと思ったもんの、さすがにそんな都合よくはいかねえか。
だから、ほとんど暗闇ん中を、記憶と皮膚感覚だけで蟷姫いる方の巣に向かって、気配を殺して近付く。
ああそうだ。勘のいい奴なら気付いただろうよ。彼女が出産した瞬間に、もし人間そのものの姿をした子だったら俺が掻っ攫って助ける。助けたところで育てていけるかどうかは分かんねえが、やることやってみねえで諦めんのはガラじゃねえ。
ガラじゃねえんだ。
けどよ、そん時、またやべえ気配を察して俺は飛び退いた。そしたら首筋をなんかがかすめやがった。そのままにしてたらざっくり首をやられてたぜ。
んでもって、温度を感じて目を向けると、なんかいやがる。カマキリ怪人じゃねえ。ヴェロキラプトルみてえな獣でもねえ。鳥怪人でもねえ。そいつらは基本的に昼に活動する。
ってえことは、夜行性の獣か。
「フッ! フッ!」
と息遣いも聞こえてきた。
ちい……! こんな時に……!
とは思うけどよ。そんなもん、獣にゃ関係ねえよなあ。なら、泣き言は必要ねえ。目はほとんど役に立たねえが、耳も鼻も皮膚感覚もある。そいつらを総動員して備えろってえこった。
幸い、息遣いを殺すつもりはねえらしい。まあそこまでしなくたって獣を狩るだけなら大丈夫なんだろ。ましてや昼に活動するような奴は夜にゃほとんど何もできねえ。
けどな、俺はそう簡単にはやられてやらねえぞ?
早く蟷姫のところへ行かねえとと焦れる気持ちもありつつ、意識を逸らしゃすぐに見失いそうなそいつに集中。相手が動いて俺に触れた瞬間に全力でぶちのめす。
それしかやりようがねえ。
「……」
「フッ、フッ」ってえそいつの息遣いに俺も呼吸を合わせる。呼吸のリズムが変わったら襲ってくる瞬間だろうってことでな。かすかに温度を感じる辺りに、うっすらと影も見える。どうやらまた人間っぽい姿をした奴みてえだな。
だが、俺に殺気を向けてくるんなら、容赦はしえねぞ。




