ちゃんと俺の一部になってる
さすがに出産直後だったからか『最後まで』ってことはなかった。それでも、俺の手を取って自分の首筋に擦り付ける。甘える仕草だ。
人間だとこれもとんでもないことだろうよ。自分の子供を食い殺した女が甘えてくるんだからな。
だが俺は、それについても不思議なくらいに冷静だった。彼女のことを受け入れられていた。
だってなあ、野生ならこれも別におかしなことじゃねえもんな。ライオンとかだってよ、ボスが交代した時なんかにゃ、前のボスの子供とかを、母親であるメスが見てる前で新しいボスが噛み殺したりするらしいじゃねえか。子供がいる間はメスが発情しねえからってことでよ。で、メスも自分の子供が殺されてもすぐに発情して、新しいボスの子を生むんだってな。
猫なんかでも、母猫が自分の子を食い殺しちまうことだってあるとも聞いたことがある。
だからこれもこういうことの一つなんだろうと、俺自身、腑に落ちちまった。
もちろん、死んだ子供のことについては感じるところがないわけじゃねえけどよ。ここじゃ人間だって獣の一種でしかねえんだ。生きる力がねえ奴、親に我が子と認識してもらえねえ奴は、生き延びられねえ。そういう話でしかねえ。
『人間様なんだから特別扱いしろ!』
とか言ったって誰も聞いちゃくれねえ。
ああ……そうだな。『三人』だ。三人、ダメだったらその時は身を引くさ。蟷姫はカマキリ怪人なんだ。だったらカマキリ怪人としての子を生むのが道理ってもんだろ。
そんなわけで、あと二人。二人試してみる。
『酷い親だ!』
ってか? 好きに言ってろ。実際にここで生きてるわけでもねえ奴の戯言なんざ届かねえからよ。
そんなわけで、たぶん二週間くらいしたら、どうやら回復したのか蟷姫がまた俺を求めてきた。我が子が母親に食い殺されてその血が染みついた巣の中でも、俺もしっかりとそれに応えられた。
死んだ子供はちゃんと俺の心の一部になってる。ほんのちょっとしか生きられなかったとしてもあの子は確かに生まれてきたんだ。それでも、カマキリ怪人としちゃ死産と同じだったんだと思える。そういうのも承知の上で、自分がすっかり<野生>としてここに馴染んだのを改めて感じたよ。
んでもって、あんなことがあっても、俺はちゃんと蟷姫を愛してるって感じたぜ。俺はこいつが好きだ。こいつと一緒にいて、こいつに求められるのが嬉しい。理屈じゃねえんだ。そう感じるってえこった。
蟷姫が求めるんだったら俺も応えるだけだ。三人目まではな。




