自分の子供
「ギギ……ギィッ……ギ……」
かすかに呻き声みてえのが聞こえ続けてっから、命は落としてねえってのは分かるんだけどよ。様子が分かんねえってのはマジで焦れるぜ。すげえ無力感だ。イノシシみてえな獣を絞め殺せる力があっても何の役にも立たねえ。
くそったれ……!
けどよ、たぶん二時間くらい経った頃によ、蟷姫が巣から出てきたんだ。一人で。しかもそのまま密林の中に消えちまった。
「おい…! 子供はどうした……!?」
思わずそう口に出ちまった瞬間に、ギリッと硬いもんが俺の腹んなかで捩れる。<嫌な予感>なんてもんじゃねえ。はっきり<確信>があった。何しろ蟷姫の顔が血塗れだったからな。
俺は仮の巣を飛び出してそのまま木の枝を渡って蟷姫がいた方の巣に向かう。そうして中を覗き込んだら、
「……くそっ……!」
そこには俺が想像していた通りのがあった。もうまともに人の形をしてねえ<赤ん坊の死体>だった。<カマキリ怪人>じゃねえ。残った部分だけを見ても分かる、間違いなく<人間の子供>だ。
「……俺の方の特徴が出ちまったのか……」
たぶん、そうだろうな。俺と違って透明じゃなかったけどよ。間違いなく俺の子供だったってえ証拠だろ……
その所為で、蟷姫はきっと<自分の子供>ってことが分からなかったんだろう。だから食っちまった。ただの餌として。
人間としちゃこれはとんでもねえことだってのは俺だって分かるぜ。だが俺は、不思議と怒りみてえのは湧いてこなかった。野生の獣なら逆にこっちのが当たり前だろ。わけのわからねえ生き物がいきなり現れりゃな……
もしこれが死産だったら動かねえから彼女は食ったりしなかっただろうよ。けど、生きたまま生まれてきちまった。動いてたから彼女はそのまま食った。出産の所為で体力も消耗してただろ。それを取り戻すのにちょうどいい餌が目の前に現れたってことだ。
まあ、それでも足りなかったみてえだからそのまま狩りに行ったんだろうけどな。
俺は、顔の半分と胸の半分と左腕がなくなった我が子を、たぶん後産で出てきた胎盤と一緒に腕に抱えて巣から下りた。そのまま巣がある木の根元に穴を掘って埋めた。なんか、他の獣の餌にする気になれなくてよお……
土に埋めても微生物に食われるだけなのは分かってるけどよ。まだなんかそっちの方が気分的にマシってだけだな。
そうして拾った石を墓標代わりに置いたところに、
「……」
蟷姫が帰ってきた。たぶん、水浴びもしたんだろ。顔もきれいになってた。しかも、あれだけ俺に牙を剝いてたってのに、近付いてきたんだよな。




