悪い取引じゃねえだろ?
そうしてそいつを地面に叩付けたと同時に、俺は腋に抱えていたそいつの腕をへし折ってやった。『武器を奪うため』だ。
「ギイッッ!?」
野生の獣じゃまず使う者のいない極め技で腕を折られたことに、そいつは悲鳴を上げた。もっとも、その所為でトゲが食い込んだカマが引っ張られ、俺の背中も裂けたけどな。
だが、それと引き換えに腕を一本もらえたんなら、悪い取引じゃねえだろ?
さらに怯んだそいつのもう片方の腕を掴み<十字固め>に移行。これまたノータイムで腕をへし折ってやった。
「ギヒッッ!!」
続けて腕を折られ、さすがに動揺が見える。見えるが、それは一瞬だった。
「ギイイイイイイッッ!!」
そいつは折れた腕に構わずに体をひねって蹴りを放ってくる。腕が使えなくても足があるということだ。
俺も咄嗟に離れて躱したが、さすがだぜ。
立ち上がったそいつがロケットみてえに頭から突っ込んでくる。全体重を掛けた頭突きだ。すさまじいまでの執念だな。
ここまでくると『俺に勝つため』と言うよりは、『生きるため』か。両腕が折れたこいつがこの場を生き延びてそこから先、どうやって生きていくのかは分からねえ。だが、そんなことで諦めるつもりは毛頭なさそうだ。
そうだな。腕が使えねえくらいで諦めるようなら、ここまで生き延びちゃいなかっただろうさ。
体の一部が欠損しても生きてる野生の動物だっている。こいつらは、命がある限りは生きることを諦めねえ。ここまでだって何度も見てきた。こいつも同じってだけだ。
たとえそれが<女の取り合い>であっても、こいつらにとっちゃ命を懸けてるのと同じか。
肚あ括ったつもりだったが、無意識に手加減しちまってたこともそうだし、俺もダセえよな……
なんて、凹んでる暇もねえ。ここじゃ呑気に凹んでる間に他の奴の腹ん中だ。だから俺も、突っ込んでくるそいつに逆に突っ込んでいって、ぶつかる直前に体をひねって直撃を躱し、首に腕を巻き付けて、まったく手加減なしに締め上げた上で引っこ抜くようにして後ろに倒れこみ、容赦なく極めた。
ボギャッッ!
という、普段なら絶対に耳にすることのねえ音が、俺の体に伝わってくる。俺の力とそいつの体重と突っ込んできた勢いのすべてが首に集中したんだ。それに耐えきれなかった。
そいつの首がな。
ビクビクと痙攣しながら地面をのたうつように少し動いたが、もう、意味のある動きはできなかったな。壊れた動く人形の玩具みてえに、ぎくしゃくと体を歪ませただけだ。




