有り得ねえ攻撃
カマキリ怪人の常識じゃ有り得ねえ攻撃に、相手は思いっきり戸惑ってやがった。
無理もねえか。
続けて蟷姫は、怯んだ相手の背後に回って、首に腕を回し、さらに両脚を相手の胴に回して、抱きつく形で裸絞めに移行する。
ははは! それこそ俺がやったやつじゃねえか! 蟷姫にとってもよっぽど印象的だったんだろうな。
だが、さすがに彼女はまだその手の絞め技には慣れていなかったからか、ちとポイントが甘いのが分かった。
それじゃあ相手は落とせねえぞ。
実際、相手も、なんとか彼女を振りほどこうと暴れる。地面を転がっても振りほどけないと悟ると今度は強引に立ち上がって、背中側から木の幹に全力で体当たり。
そうなると当然、蟷姫は木の幹に叩きつけられる形になり、
「ギッ!」
と声を上げた。
瞬間、締め付けが緩んだか、蟷姫が振り払われた。
その機を逃すことなく相手は弾かれるように疾って間合いを取り、もちろん蟷姫も身構えて再び対峙した。
しかし相手の方は今度は、ジリジリと下がっていく。厄介な敵だから引き下がることにしたんだろう。賢明な判断だ。
プライドなんて糞の役にも立たないもんに拘って無駄に危険に飛び込むなんてなあ、それこそ間抜けのするこった。何度も言うように野生の場合は生き残ったもんが勝ちだからよ。
そうして十分に間合いが確保できたところで相手は、ザッと茂みの中に身を隠してそのまま逃げていくのが分かった。
いいね、クレバーだ。俺は好きだぜそういうの。テロリストも、勝てねえのが分かったんなら潔く投降してくれりゃいいものを、無駄に抵抗すっから命を捨てるハメになる。
もっとも、あいつらの場合は、
『大義の為に死ぬ』
ってえのも目的の一つなんだろうけどよ。本当にくだらねえ。ましてや、世の中のことなんざロクにまだ分かっちゃいねえガキがそんな形で命を捨てるなんざ、バカの極みだろ。
まあ、あいつらはあいつらで、
『自分が生きるため』
『誰かを生かすため』
戦ってるつもりなんだろうけどよ。でもな、テロに正義なんざねえんだよ。あるのは、
<どっかの誰かの都合>
だ。テロを企てた奴の都合に踊らされてるだけでしかねえ。
家族を守るつもりで戦ったんだとしても、てめえが死ねば、今度はてめえが守ろうとした家族がテロの尖兵として駆り出されるだけだ。
実際、俺が撃ったテロリストのガキの親父もテロリストだったらしいけどよ。逮捕された時にホザきやがったそうだ。
「自分は息子達が戦わずに済むように戦ってる」
ってよ。
それが実際にゃ、てめえは刑務所で生かされて、守ろうとしていたガキが先に死んだんだよ。
最高に情けねえ話じゃねえか。




